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穏やかな独裁者②
「陸、それいつ聞いたの」
「昨日、一緒に帰った時だよ。何で?」
「だって、清虎ダッシュで帰ったじゃん。だから俺も安心してすぐ家に入ったのに。そんな会話出来る時間あった?」
「あったよ、劇場裏で清虎見送ったし。その時に、『水曜も学校に行ける』って聞いたんだけど」
話しながら、だんだん怒りがこみ上げてくる。なぜ自分が責められているのかわからない。友達と一緒に帰って「じゃあまたね」と会話したどこに、咎められなければいけない要素があるのだろう。
ふつふつ沸き上がる反発心を抑えるために、陸は唇を噛む。そんな陸にはお構いなしで、哲治は更に追い打ちをかけた。
「陸、清虎に執着し過ぎだぞ。いなくなる奴にあんま深入りすんなって。仲良くしたって無駄だろ、友達になんてなれっこない。どうせすぐに忘れるんだから」
陸は信じられない気持ちで哲治を見上げる。耳から直接ドロッとした汚水を流し込まれたような、この上ない嫌悪感に襲われた。今すぐ全て洗い流してなかったことにしたい。
「……酷い。俺は清虎と友達になりたいって真剣に思ってるよ。すぐに忘れたりなんかしない。哲治は違ったの? じゃあ、なんで清虎を応援団長に推薦したんだよ」
「それは……」
「もういい」
言い淀んだ哲治を置き去りにして、陸は鞄を掴むと哲治から一番離れた席についた。頬杖をつき、何も書かれていないまっさらのホワイトボードを睨み続ける。腹が立って仕方なかった。
『いなくなる奴』
そんなの言われなくたって解っている。運動会の翌日にはもう、清虎はこの街からいなくなる。それはどうやっても変わらない未来。
そこまで考えて、思考をシャットアウトしたくなった。自分でも驚くほど大きな溜め息が出る。哲司の言葉に怒りを覚えたのも事実だが、それ以上に傷ついている自分がいた。
清虎に、どこにも行ってほしくないと願ってしまっている。深入りするなと言われても、もう手遅れなのだ。だからこそ、哲治の言葉のひとつひとつが許せなかった。
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