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穏やかな独裁者④

「哲治、最近ヘンだよ。帰ったら必ずメールしろとか、今までそんなこと言わなかったじゃん」 「違うよ、おかしいのは陸の方だろ。なぁ、どうしちゃったの? 何で俺の言うこと聞いてくれないんだよ。清虎が来てから、ずっとお前はヘンだよ。ほら、今だって目を合わせようともしない」  肩から手を放し、今度は陸の顔を包むように両手で押さえつけ、自分の方に向けさせた。陸が目を合わせるまで、哲治の視線が執拗に追って来る。食い込んでいた指が離れたと言うのに、肩がジンジンと痛んだ。 「離せってば」 「嫌だよ。離したら陸はどっか行っちゃうんだろ。頼むから俺の目の届く範囲にいてくれよ。高校も大学も、同じところへ行こう。大人になっても、ずっとこの街で過ごそう。ね?」   頭を固定されている陸は逃げ場もなく、顔を覗き込まれて仕方なく哲治を見返す。上ずった声とは裏腹に、哲治は温厚な笑みを浮かべていた。その不自然さに背筋が冷たくなり、哲治の手首を掴んで引き離そうとしたが、びくともしない。 「陸はただ、清虎が珍しくて興味を持ってるだけだよ。だから今は大目に見てあげる。変に心残りを作って、忘れられなくなっても困るしね。それに、清虎は自分が『よそ者』だって自覚してるから、いつもちゃんと俺に気を使ってくれてるだろ? 俺との間に割って入ってまで、陸と友達になる気はないんだよ」  相変わらず強い力で抑え込まれ、締め付けられた頭が痛む。口調こそ優しいが、言ってることは滅茶苦茶だ。 「何言ってんだよ、清虎はもう友達だろ。別に俺は、興味本位で近づいたんじゃないよ。ただ清虎に、次の場所へ想い出を持って行ってほしいだけ。最初からいなかったみたいに消えて欲しくないじゃんか」 「想い出。うん、そうだね。だけど、強すぎる想い出は別れが余計に辛くなるだけだ。だから、程々にね」  幼い子どもを諭すような声のトーンだった。哲治は手の力を緩め、今度は優しく陸の髪を撫でる。 「陸のためだよ」 「本当に?」  陸の言葉が意外だったようで、哲治は軽く目を見開いた後に深く頷く。 「俺はいつも、陸のことを思ってアドバイスしてるよ」  その言葉が嘘でないことは陸も理解していた。ただ、嘘でないことと、それが正しいかどうかは、また別の話しだ。 「哲治にはいつも感謝してるよ。もう一人の兄貴みたいに思ってる。けどさ……。いいや、もうヤメよ。なんか話が堂々巡りしてる。運動会を良い思い出にしたいだけなのに」 「大丈夫、ちゃんと協力する。その代わり、運動会が終わったらもう、清虎とはサヨナラだ。解ってるね?」  目の前の哲治は終始穏やかだった。声を荒げるわけでもない。陸に触れる手の力は少々強かったが、それだけだ。  なのに独裁的に話は進む。  違和感を覚えながらも、陸は「わかった」と返事をした。

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