35 / 164

難儀やなぁ③

 バス停にはまだ哲治の姿はなく、安堵した陸は体から力が抜けるのを感じた。哲治に対して緊張していたのかと驚くと同時に、そんな自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。ただの幼馴染相手に、なぜこうも身構えなくてはならないのか。  哲治のことなら良く解っていると言う自負があった。最近上手く噛み合っていないのは多分、単純で些細な行き違いのせいだ。  きっと自分は、まだ幼く頼りない存在だと思われているのだろう。だから、過干渉とも思えるような態度で哲治は接してくるのだ。  きっと、恐らく、多分。  そんな曖昧な言葉で、陸は違和感の正体から目を逸らす。 「陸、眉間に皺が寄っとるで。何を思い詰めとるん」  清虎が陸の眉間に人差し指を当てて、ぐりぐりと押した。悪戯っ子のように笑う清虎の頬を、陸はお返しとばかりにつまんで引っ張る。 「痛い痛い」 「おあいこでしょ」  陸が手を離すと、清虎は口を尖らせながら自分の頬をさすった。そんな仕草が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。ふと視線を清虎の背後にやると、哲治がこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。陸は意識して笑顔を作り、片手を挙げる。 「哲治、おはよ」 「おはよ。陸、今日は早いね」 「うん、今日は超早起きしたからね」  言いながら、自分の鞄から弁当を取り出して哲治に差し出した。 「俺、自分で弁当作ったんだ。哲治の弁当と交換してよ」 「自分で作ったの?」  なぜと言いたげに首を傾げ、チラリと清虎に目を向ける。その視線を受けた清虎は、澄ました顔で頷いた。 「お察しの通り、俺も弁当もろたよ」 「なるほど。……ま、いいか」  哲治は溜め息交じりに弁当を受け取り、代わりに自分の分を渡す。交換した弁当を陸が鞄に入れ終えると、丁度よくバスが来た。 「いつから料理するようになったの」  車内の手すりに掴まりながら、哲治が尋ねる。 「今回が初めてだよ。成海()ぃに教えてもらった」 「あぁ。この前の『新作の試食』って、このことだったんだ。あの時、何かヘンだと思ったんだよね」  嘘を見抜かれていたことにドキリとしながら、陸はなるべく動揺を悟られないように笑って見せた。 「ごめん。だって、当日驚かせたかったから」  この嘘も気づかれてしまうのだろうかと内心ハラハラしたが、哲治は「そっか」と白い歯を覗かせた。  ああ、良かった。いつもの哲治だ。  陸はそう実感しながら嬉しくなって、今度は自然と顔をほころばせた。

ともだちにシェアしよう!