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*第十一話* 誰よりも特別
雲一つない青空の下、運動会のプログラムは滞りなく進んで行った。校庭を照らす日差しは強いが、時折吹く風はカラッとしていて清々しい。
「運動会って、ある意味祭りだよね」
それぞれのチームカラーで描かれた応援看板を眺めながら、陸はハチマキを締め直す。「必勝」や「闘魂」など鼓舞するようなスローガンが並び、否が応でも気分が高まった。
「そもそも体育祭って呼ぶ学校もあるんだから、祭りで間違いないんじゃないの」
哲治が陸のハチマキに手を伸ばす。曲がった結び目を整えて貰いながら、陸は応援席の背後に掲げられた大きな看板を見上げた。
白組の看板には、険しい岩山に足をかけ、月を睨んで咆哮する、それは見事な白い虎が描かれていた。横に添えられた「無双」の二文字と相まって、団長の清虎に相応しい出来栄だ。
「今のところ、青組にリードされてんなぁ。午後のリレーで挽回しないと。頼んだぞ、清虎」
クラスメイトの声が聞こえて、陸はそちらに目を向けた。少し離れた場所で得点板を見ながら話している集団の輪の中に、清虎の姿を見つける。
「まかしとき。でもまだ午前の部に、陸が出る百メートル走が残っとるやん」
辺りを見回した清虎は、陸と目が合うと手を振った。
「陸! この後、百メートル走やろ。頑張ってな」
「うん、今から行ってくる。終わったら昼休憩だから、一緒に弁当食べよ」
弁当と聞いた清虎の表情が期待に満ちる。大きく頷いて、白い歯を覗かせた。陸は清虎に笑顔を返し、それからすぐ横にいる哲治の肩を叩く。
「哲治もね。じゃ、行ってくる」
「ああ。一位取って来いよ」
「もちろん」
握った拳を掲げて、陸はグラウンド中央の集合場所へ向かう。
リレーの選抜メンバーには惜しくも届かなかったが、陸も走ることは得意だった。スタートラインに並んだ時の、血が逆流するような高揚感はたまらない。
陸は白組の列の最後尾に並んで、隣の青組と赤組の走者を横目で確認した。走るグループは実力が拮抗するように組まれているので、どちらも強敵だ。
ほどなくして競技用のピストルが鳴り、最初のグループが走り出した。陸は緊張と興奮で強張る体を解すように、手足をぶらぶら振る。応援席に目をやると、どのクラスの生徒も立ち上がり、身を乗り出して声援を送っているのが見えた。
一位になりたい。勝ってあの場に戻りたい。
遂に陸の番が来て、スタートラインに立った。全身の毛が逆立ち、ゴールが獲物に見えて狩猟本能が掻き立てられる。
大きく息を吸い込んで顎を引き、号砲が鳴る瞬間を待った。
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