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誰よりも特別③

 午前中の高揚感を引きずったままのせいか、校舎内のあちこちから昼食を取るために戻った生徒たちの、賑やかな声が聞こえてきた。  教室では女子がグループごとに机をくっ付け、弁当を広げている。男子は教室の後ろで床に直接座り、ひとかたまりになって食べ始めていたので、陸たちもその輪に加わった。  清虎は胡坐をかき、目の前に置いた弁当箱をニヤニヤしながら眺める。陸が清虎の肩をツンとつついた。 「清虎、早く食べないと時間なくなっちゃうよ」 「せやけど、何かもったいない気がするやんかぁ。でも、そうやな。食わんとな」  意を決したように弁当を自分の膝に乗せ、包みを解いた。深呼吸を一つした後、緊張気味に蓋を開ける。「うわぁ」と小さく感嘆の声を上げ、清虎は少しの間、弁当に魅入った。早く感想を聞きたい陸は、そわそわと落ち着かない。 「清虎ぁ」 「待ってえな。今、目に焼き付けとんねん。凄いなぁ、全部美味そう。それに色もホンマに綺麗や」  枝豆が刺さったピックを摘まみ上げ、パクリと一口頬張った。幸せそうに頬を緩め、今度は卵焼きに箸を伸ばす。陸は清虎にピッタリくっついて反応を伺ったが、焦れたように解説を始めた。 「あのね、玉子焼きは傷むといけないから、今朝作ったんだよ」 「へぇ、めっちゃ美味いで。陸、料理の才能あるんちゃう」 「ホントに? あ、こっちの鶏肉は下味付けて焼いたんだ。それから……」 「ほら、陸。お前も食べないと時間無くなるだろ。昼の最初のプログラムは応援合戦なんだから、他の奴らより早く行かないと」  哲治に肩を掴まれ、清虎から引き剥がされる。陸は口を尖らせたが、哲治の食べている弁当がもう既に半分以上減っている事に気付いて、覗き込むように身を乗り出した。 「もうそんなに食べたの」 「うん。凄く美味いよ。な? 清虎」  鶏肉を口に放り込みながら、清虎が大きく頷く。その様子を見たクラスメイトが、哲治に声を掛けた。 「なになに。哲治と清虎は陸の作った弁当食ってんの?」 「そう。そんで、陸は俺の弁当食ってる」 「哲治と陸はホント仲良いなぁ」 「まぁね」  まるで当たり前のことのように哲治が返事をする。何となく居心地悪く感じ、陸は清虎に視線を戻した。黙々と食べていた清虎は、陸と目が合うとにっこり笑う。その笑顔にホッとして、微笑みを返した陸の背中に哲治が告げた。 「ねぇ陸。また今度作ってよ、弁当」  一瞬。  ほんの一瞬だけ、清虎の表情が曇ったような気がした。気のせいかもしれない。ただ、「また今度」がない清虎が傷ついたのだとしたら、胸が痛む。 「哲治……」  もしも清虎が傷つく言葉を選んで放ったのだとしたら、哲治は相当に意地が悪い。考え過ぎかもしれないが、(いさ)めるつもりで口を開いた。しかし陸が次の言葉を発するよりも先に、遠藤の鼻にかかった甲高い声が教室に響く。 「哲治。体育委員の仕事、もう行かなきゃ」 「ああ、そっか。忘れてた」  立ち上がった哲治が、陸と清虎を見下ろした。

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