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誰よりも特別④

「じゃあ、先に行ってるな」 「……うん」  タイミングを逃した陸は、それ以上何も言えずにうなずいた。教室から出ていく哲治の背中を見ていたら、思わずため息が漏れる。 「陸、俺は別に平気やで」  まるで思考を読んだかのように、清虎は小さな声で囁いた。陸は驚きながら清虎の顔を見返し、「俺が何を考えてたかわかるの?」と不思議そうに問いかける。 「俺のこと、気遣ってくれたような顔しとったから。あとなぁ、俺もうっかり『寂しい』って顔に出してもうた。ごめんな、心配させてしもて。最後まで演じ切らなあかんのに、これじゃ役者なんて名乗れへんわ」 「最後まで演じ切るってどういう意味だよ。清虎は一体、何の役を演じてるっていうの」  眉を寄せた陸から目をそらし、食べ終えた弁当を清虎は綺麗にまた包み直した。手元を見つめたまま、静かにぽつりと溢す。 「陸の中で、ずっときれいな思い出として残る、一ヵ月しかいなかった転校生の役。思い出してもらう時は、笑った顔の方がええやん」  ゆっくり清虎が瞬きをした。  それで気持ちを切り替えたのか、次に陸へ視線を向けた時は穏やかな笑みを浮かべていた。  今にも泣きだしそうな陸は、口を真一文字に結んで押し黙る。気の利いた言葉など一つも浮かばず、なのに伝えたい想いだけは膨らんでいった。 「陸、弁当ありがとう。ホンマは洗って返したいところやけど、俺、運動会終わったらすぐ発たなあかんねん。堪忍な」  手渡された弁当箱は、思った以上に軽かった。そのどうしようもない空虚感に、恐怖すら覚える。  清虎が「さてと」と言いながら立ち上がった。 「ほな、俺は着替えて先に校庭行こかな」 「手伝うよ。袴着るの大変でしょ」 「大丈夫やで、着慣れとるし。陸は体操服のままでええんやろ? まだ弁当食っとき」 「でも、校庭には一緒に行くから」  置いて行かれたくない陸は、残りの弁当を急いで掻き込む。 「ゆっくり食いなはれ。後で腹痛くなっても知らんで」  ククッと笑った清虎が、半袖の体操服の上から剣道用の白い道着を羽織った。内側にある二カ所の紐を蝶結びし、襟を整えながら外側の紐も結んでいく。そんな調子であっという間に袴も一人で着付けていった。  赤組の道着でも青組の道着でも、恐らく似合っていただろう。けれど間違いなく、清虎には白が一番映える。 「うっわ、清虎似合うな」  着替え終えた清虎に気付き、クラスメイト達が喝采を送った。腰まで届く長いハチマキを結びながら、清虎が不敵に笑う。 「競技の得点とは別に、応援合戦だけの勝敗も決めるんやろ? 俺、絶対応援合戦で優勝したいねん。お前らも協力してな」 「当たり前だろ、赤組にも青組にも負けらんねーよ」  肩を叩き合う様子を眺めながら、陸も清虎と同じ長いハチマキを締め、気合を入れた。 「俺も精一杯、清虎を支えるから。必ず優勝しよう」 「頼りにしとるで。ほな、行こか」

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