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終わりの日②

「卑怯な手を使われてるのに、先輩呑気過ぎますよ。あのギター弾いてるの、ジュニアのギターコンテストで優勝したことある奴ですよ」 「へぇ、そら凄いな。けど、卑怯とはちゃうやろ。楽器は別に、禁止されとるワケやないし。なぁ?」  清虎は確認するように陸を見る。陸は忌々しそうに顔をしかめて頷いた。 「楽器は一台まで認められてて、例年どのチームも大太鼓を使うことが多いかな。まぁ、吹奏楽部の部員がトランペットやサックスを吹いた年もあったけど。でもさぁ、部活で使ってる楽器とわざわざ家から持ち込んだ楽器は、ちょっと違う気がするな。抗議してもいいんじゃないの」  至極まっとうなことを言ったつもりだったが、清虎は涼しい顔で首を横に振った。 「なんて抗議するん? 『管楽器ならええけど、エレキギターの音は派手過ぎて勝てそうもないからズルいです』言うん? ええやんか。それくらいのハンデ、くれてやれ。普段、金貰ろて舞台立ってる俺が出るんも大概やろ」  清虎が当然自分の意見に賛同してくれると考えていた陸は、驚きながら反論する。 「そんな、悔しいじゃん。折角今日まで練習してきたのに、邪魔されるみたいで」 「向こうかて今まで真剣に練習して、その上で策を練ってきたんやろ。それが多少強引な手であったとしても。応援団の発表は、赤、青、白の順やんな? メインの演舞は同時にはならんし、邪魔されることもないやろ」 「でも最後には応援合戦を、全チーム一斉にやるだろ。このままじゃ、青組が一番目立っちゃうよ」 「そないなこと、させへんよ」  憤る陸を清虎が静かに見下ろし、低い声で言い切った。その自信に満ちた物言いに、陸も後輩も息を呑む。根拠などあるのか解らないが、それでも清虎の言葉には不思議な安心感と説得力があった。  委員会の仕事を終えた哲治と遠藤が、校庭を突っ切りこちらに向かって駆け寄ってくる。 「青組のこと、聞いた?」  遠藤が不安そうに眉を寄せ、清虎の袖を引いた。清虎が頷きかけた瞬間、耳をつんざくようなギターの音が校庭中に響き渡る。  それは甲子園の応援などでしばしば用いられる、耳慣れた楽曲だった。  使用するギターは一本だけのようだが、アンプから最大の音量で出力される音色は、なかなかに攻撃的だ。  白組だけでなく、赤組応援団の士気もみるみる下がっていくのが解る。  成す術もなく立ち尽くす陸達だったが、清虎だけは違った。 「ははっ。威嚇のつもりか知らんが、切り札を本番前に見せてどないすんねん。勿体ない。さて、白組団員は揃っとるか?」  清虎がギターに負けずに声を張り上げる。その声に引き寄せられるように、団員たちが清虎を囲んだ。 「ええか、あないな音にビビることあらへん。応援合戦は、音の大きさ張り合うもんやない。今日まで練習してきた俺たちの心意気は、あないなもんで簡単に掻き消されたりせぇへん」  清虎が、一人一人の顔を順に見ながら訴えかける。その目は燃えるようだった。その熱につられ、俯いていた団員たちの頬にも徐々に赤みがさしていく。 「俺たち応援団がオドオドしとったら、白組全体にその空気が伝染してまうぞ。不安なヤツも歯ぁ食いしばって笑え。赤組の応援も青組の応援も、余裕シャクシャクの顔で高みの見物させて貰おうやないか。大音量も上等や。迎え撃って一泡吹かせたれ!」  清虎の言葉を受けて、白組から(トキ)の声が上がった。

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