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終わりの日④

 白組が演じるのは、扇子を使用した群舞(ぐんぶ)だ。劇団の演目を清虎が踊り易いようにアレンジしてくれたもので、日舞とヒップホップやジャズダンスが融合した、独創的な舞だった。  伝統的な淑やかさの中に、悠然で煌めく強さを感じさせる。  青組のように衝撃的で場を支配する派手さは無いが、芯のある凛々しさは人々の目を釘付けにした。とりわけ清虎の舞は圧巻で、流石としか言いようがない。  清虎は団員に振付を教えるだけで、練習中に自分が曲に合わせて踊ることは一度もなかった。ずっと疑問だったが、先ほど清虎が放った言葉を思い出し、更に演技を見守る観客の表情を見て、陸は全て理解する。 『切り札を本番前に見せてどないすんねん。勿体ない』  確かに練習風景を事前に見せていたら、これほどのインパクトはなかったかも知れない。「だけど」と、陸は踊る清虎の背を見て思う。  清虎の舞ならば、何度見たって毎回心奪われていたに違いない。  和楽器と洋楽器が上手くミックスされたアップテンポな曲が、クライマックスに差し掛かる。それとほぼ同じタイミングで、白組の応援席から手拍子が聞こえて来た。打ち合わせなどしていない。「背中を支えて欲しい」と請うた清虎への、答えのような温かい音だった。  口角を上げた清虎が、手にしていた扇子をパチンと閉じる。何をするのだろうと陸が踊りながら見守っていると、閉じた扇子を刀に見立て、清虎は剣舞を演じ始めた。真昼の太陽の光を一身に浴び、清虎の汗が散る。  それは白昼夢のような光景だった。  優雅でいて大胆な舞に、一緒に演じている応援団すらも思わず見惚れてしまう。  手拍子は次第に観客全体へと広がっていった。曲は既に終盤を迎えている。  ああ、終わってほしくないな。  陸は唇を噛みしめる。  笑顔の清虎と目が合った。  どの瞬間よりも、今日で終わりなのだと実感した。

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