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痛みを感じないで済む場所④
リレーが始まっても声を出す気になれず、陸は呆けたようにただグラウンドを眺めていた。
青組が独走し、大差を付けられたまま清虎にバトンが渡る。
全力で駆ける清虎を見つめ、「嘘だろう」という感情が湧いた。
出会ってたったの一ヵ月だと言うのに、清虎がいなかった以前の日常が思い出せない。今までどう過ごしていたんだろう。退屈だと思ったことは一度もなかった。むしろ毎日楽しかったし、満足していたように思う。
だけど今は、清虎のいない世界が恐ろしくて仕方ない。
青組との差を縮めた清虎が、哲治にバトンを繋いだ。アンカーの襷 をなびかせながら、猛スピードで青組に迫る。それでも僅かに届かず、白組は二着でゴールした。走り終えた哲治が、苦しそうに膝に手を置き呼吸を整えている。その背を清虎が励ますように叩いた。
顔を上げた哲治が汗を拭いながら、清虎に何か話しかけている。その顔は思い詰めているように感じられ、聞いている方の清虎の顔も、また切なそうだった。
一体なにを話しているのだろう。
二人の会話が気になって、閉会式も上の空だった。
得点板の開示とともに青組の優勝が告げられ、青いハチマキの集団から歓声が上がる。その後、応援合戦の結果発表に入り、さすがに陸の意識も朝礼台に立つ校長に向いた。
「本年度の応援合戦優勝チームは、白組です」
優勝チームは、白組。
脳が言葉を理解するより先に、陸は喜びの声を上げていた。周囲も歓喜の声で溢れる。
「陸!」
清虎に名前を呼ばれた次の瞬間、強く手を引かれ、気付くと腕の中に納まっていた。
「陸、やったなぁ。ホンマに嬉しい」
背骨が折れるのではないかと思うほど強く抱きすくめられ、清虎の肩に顔を埋めた陸は泣きそうになる。
正体不明の痛みを感じないで済む場所は、清虎の腕の中だけかもしれない。
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