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*第十四話* 最適解

 今更それに気づいても、もうその場所を失ってしまうというのに。  僅かに空いた隙間さえ埋めたくて、清虎をきつく抱き締め返した。このまま二人で骨ごと砕けて、いっそ一塊(ひとかたまり)になってしまえたらどんなに良いか。  そう思ったのも束の間、ふいに清虎の体から力が抜け、陸の背に回していた両腕がするりと解ける。  時間切れを悟った陸は、唇を噛んだ。  いつまでも抱き合っている訳にもいかず、追いすがりたい衝動を抑えながら腕の力を緩める。  清虎が囁くように小さな声で「今日までありがとう」と口にし、陸から静かに体を離した。その瞬間、消えたはずの痛みが何倍にもなって襲い掛かる。息が上手く吸えず、ひゅっと喉が鳴った。  清虎は壇上から名前を呼ばれ、大きな歩幅で堂々と前に進み出る。  拍手と歓声を浴びながら優勝杯を受け取り、満面の笑みでこちらを振り返った。「ああ、終わってしまった」と、陸はぼんやりその光景を眺め、幕が下りる場面を想像する。もしこれが映画やドラマなら、今からエンドロールが流れ始めるのだろう。だけど生憎これは現実で、明日も明後日も日常は続いて行く。    閉会式の後、校庭ではホームルームが行われ、そこでクラスメイトから清虎へ色紙が送られた。「ありがとう」と笑う清虎を見て、一体今まで何枚の色紙を貰ってきたのだろうと陸は考える。  タスクが一つずつ終わり、残された時間はあと僅か。  一般の生徒たちが下校し、体育委員と応援団で後片付けが始まった。この作業が終了すれば、本当にもうお別れだ。 「このハードルも体育倉庫に持って行けばええんやな?」 「うん、お願い。清虎、時間は大丈夫?」 「ああ、まだ平気」  清虎は頷いた後、両手にハードルを抱えて校庭の片隅に走っていく。  陸はリレーで使ったバトンを箱に詰めながら、応援看板を見上げた。既にポスターは剥がされ、解体が進んでいる。  祭が終わった後の余韻が漂う校庭は、どこか物哀しかった。

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