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最適解②
「陸、疲れた?」
哲治に声を掛けられ、放心していた陸はハッとした。
「そのバトンの箱も体育倉庫だろ。三角コーン片付けるついでに持っていくよ」
「あ、いいよ。俺も一緒に行く」
申し出を断り、陸は哲治と並んで体育倉庫に向かう。歩きながらふと、清虎は劇場に戻るのか、それとも誰かが学校まで迎えに来るのか疑問が湧いた。
一緒に帰れるのか清虎に尋ねてみようと考えながら、隣を歩く哲治を見上げる。
「ねぇ、リレー終わった後、深刻な顔で清虎と何を話していたの?」
ピクリと哲治の眉が上がった。
「深刻? 走り終わったばっかりで苦しかったから、そんな顔に見えたんじゃないの」
「嘘だ。そんな感じじゃなかった」
「嘘じゃないって」
哲治が苦笑いしながら、体育倉庫の扉を開ける。道具をしまいながら、「そう言えば清虎に会わなかったね」と哲治は首を傾げた。
「確かに。清虎が戻って来たとしても、どこかですれ違うから気付かないわけないよね」
陸が慌てて清虎を探す為に体育倉庫から出ると、誰かの話し声がして哲治と顔を見合わせた。
哲治は声がした方へ静かに近づき、壁に身を隠しながら体育倉庫の裏をそっと覗く。次の瞬間、哲治の体が驚いたようにびくっと小さく跳ねた。何だろうと思いながら陸が近づくと、哲治がジェスチャーで「こっちに来るな」と伝える。
そんなことをされると余計に気になってしまい、陸は哲治の制止を無視して覗き見た。そして目に飛び込んできた光景に絶句する。
そこにいたのは遠藤と清虎の二人だけだった。
物陰に隠れての逢瀬など、それだけでも充分胸がざわつくのに、二人は互いに強く抱きしめ合っているという、陸には受け入れがたい状態だった。
清虎の胸に納まる遠藤の横顔は満ち足りていて、それが更に陸の感情を逆撫でする。
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