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最適解⑤

「ねぇ、そのハチマキ見せて」  陸はクラスメイトに迫り、差し出されたハチマキを受け取った。焦る気持ちのまま乱暴に広げ、そこに書かれた名前を見て愕然とする。 「これ、俺のじゃない」 「えっ。でもちゃんと書いてあるよ『茶益(さえき)陸』って。お前いつもゲンを担いで、屋号の漢字使うだろ?」  陸のハチマキを持つ手が震える。なぜこれを確認する前に、清虎を疑ってしまったのだろう。 「今回は最初から清虎と交換するつもりだったから、ちゃんと『佐伯』の方で書いたんだ。だから、これは誰かが用意した偽物」  手の中のハチマキから視線を上げる。一歩踏み出そうとした陸の前に、哲治が立ち塞がった。 「今から行ったって、追いつけないよ」 「どいてよ哲治。行かせてくれなかったら、一生お前を許さない」  陸は「お前がやったんじゃないのか」と喉まで出かかった言葉を飲み込み、哲治を睨んだ。その眼差しから、陸が本気だと判断したのかもしれない。哲治は唇を噛みしめ、うなだれながら仕方なしに道を開けた。  哲治の横をすり抜けて、陸が弾かれたように駆け出す。  間に合うだろうか。  遠くに清虎が校舎に入っていく姿が見えた。用もないはずの校舎に寄るのはなぜだろうと疑問を抱いたが、真っ直ぐ帰らないでくれるのは有難い。まだ追いつけるチャンスがあると、陸は必死に走った。  人影のない校舎に入り、果たして清虎はどこに向かったのだろうかと考える。迷いながら階段に足をかけた時、上の階から乱暴に教室のドアを開ける音がした。  清虎だと確信しながら階段を一気に駆け上がる。走り過ぎたせいで息が苦しくなり、口の中に血の味が充満した。  このままの勢いで教室に乗り込んでも逃げられるかもしれない。用心した陸は、呼吸を整えながら足音を忍ばせる。

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