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最適解⑦

「どれだけ謝られたって、俺を信用してくれなかった事実は変わらないじゃん。偽物だってわかったから、俺の疑いが晴れたんでしょ? じゃあ、もし証拠が無かったら、今この瞬間も陸は俺を疑ったままってことだ」  反論できず、陸は申し訳なさそうに俯いた。そんな仕草さえ、癇に障ったのかもしれない。 「そうやってしおらしく黙ってれば、俺が許すと思ってる? そっか、哲治なら許してくれるのか。あいつも大変だよな。陸に振り回されっぱなしで、いつか壊れちゃうんじゃないの。って言うか、もう壊れかけてるからこんな事態になってんだっけ」 「そんなっ」  俯いていた陸が顔を上げる。清虎は窓の外に視線を逸らし、陸と目を合わせようともしない。 「俺が哲治を……。じゃあ、全部俺のせい?」 「そうだよ。陸は気まぐれに優しくして、思い通りにならなかったら突き放す。一番怖いのは、それが無自覚ってところ。まだ打算で動く、哲治や遠藤の方が解りやすくて可愛気がある」  血の気が引いた。関西弁の消えた清虎の口調は、淡々としたものだ。なのに、拒絶の意思がはっきりと解る。いっそ怒鳴られた方がマシな気さえした。  ここに来るまでは、偽のハチマキを捨てた犯人こそが悪だと思っていた。なんて酷い事をするんだと、清虎の味方でいたつもりだったのに。まさか自分が諸悪の根源だったとは。 「俺が、悪かった。本当にごめんなさい」  か細い声で陸が告げても、清虎は悲しそうに微笑んで首を振る。 「だから、もういいよ。全部終わったことなんだから。陸は俺が一番欲しかったものをくれて、それを最後に目の前で叩き壊した。最高で最低な想い出をどうもありがとう。酷いことばかり言ってごめんね。俺も壊れちゃったみたい」  酷く疲れた様子で、清虎が重い息を吐く。それから自分の手の中にある皺くちゃになった封筒を見た。 「俺がいなくなった後に読んで欲しくて、陸の机に手紙を隠しておいたんだ。気が変わったから回収に来たけど、やっぱり貰ってよ。そこに書いてあるのは、その時点での本当の気持ちだったからさ」  言いながら、陸の机に放り投げる。 「じゃあ、さようなら。もう二度と会わないと思うけど、元気でね」  表情のない清虎が陸の横を通り過ぎていく。掛ける言葉が見つからなかった。きっと謝罪の言葉は受け入れて貰えない。「待って」など言える権利はないのだと思い知る。ましてや追いかけることなど許されない。  陸は机の上に残された手紙を拾い上げ、皴を伸ばしながら封を開けた。白い無地の便せんに書かれている文字を指でなぞる。 『今までで一番楽しかった。ありがとう』  何事もなく平穏に今日を終え、後日この手紙を見つけていたなら、どんなに幸せだっただろう。  手紙を持つ手が震える。泣かないように奥歯を噛みしめた。  自分には泣く資格もない。  便箋を封筒へ戻しながら、裏面にも文字を見つけて手を止めた。その一文を目にした瞬間、膝から崩れ落ちそうになる。 『また会いたい』  結んだ口の端から嗚咽が漏れた。どんな気持ちでこの手紙を握り潰したのか想像すると、気が狂いそうになる。「その時点での本当の気持ちだった」と清虎は言っていた。その時点と言うことは、今はもう会いたいと思えなくなって、手紙を回収しに来たのだろう。  それならば、なぜ。 「なんで机にキスしたの……」  机の天板に涙が落ちる。陸は清虎が口づけした同じ場所に唇を落とした。  後悔という一言ではとても言い表せない感情に食い殺されそうになる。

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