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最適解⑧

 もっと大人だったら。  もっと賢かったら。  間違えずに最適解を見つけられたのだろうか。  清虎を疑う前に、ハチマキを確認すればよかった。遠藤と抱き合っている姿を見ても、声を掛けなければよかった。そもそも、最初からハチマキなんて交換しなければよかった。  清虎と友達になんてならなければ。  清虎と、出会わなければ。 「そんなの嫌だ」    陸は教室を飛び出し、階段を駆け下りる。清虎の名を叫んだが、返事は返ってこなかった。薄暗い昇降口から外へ出て姿を探しても、もう清虎の気配はどこにもない。 「陸!」  目を赤くした哲治に呼ばれ、陸はようやく立ち止まった。 「清虎なら、迎えの車に乗ってもう行ったよ」  その言葉を聞いて、陸は肩で息をしながら校門の先を目で追う。清虎と繋がっていた糸が、ぷつりと音を立てて千切れてしまった気がした。  幕切れは呆気ない。積み上げたものが一瞬で崩れ去る。もう届かないのだと思うと、悲しいよりも恐ろしかった。  虚ろな目で清虎が去って行った方向を見続ける陸に、哲治が意を決した表情で口を開く。 「陸。俺のこと一生許さないでいいよ。死ぬまで恨んでいて」  陸はゆっくり哲治に視線を移す。自分の中から感情がぽろぽろ抜け落ちていくような感覚に陥った。哲治を責める言葉が一つも思い付かない。あれほど腹が立っていたのに、口を突いて出たのは謝罪の言葉だった。 「哲治、ごめんね。俺バカだから、みんな傷つけて全部壊しちゃった。哲治のせいじゃないよ。俺が悪いんだ」  哲治は信じられないものでも見るような目をして、陸の両肩を掴む。 「なんでだよ。陸の気持ちが清虎に向いたまま戻らないなら、せめて怒りや憎しみの感情を俺にぶつけろよ。なんで謝るんだよ。どんな感情でもいいから、強く俺を想って欲しいのに」  ああ、本当だ。清虎の言った通りだ。  陸は焦点の合わない目で哲治を眺めた。哲治をここまで追い詰めて壊してしまったのは、無神経な自分のせい。 「ごめんね、哲治。ごめんなさい。全部俺がいけなかったんだ。これからはちゃんと言うこと聞くよ。志望校も哲治の言う通りにするから」 「やめろよ。謝るなよ陸。どうしちゃったんだよ」  両肩を掴んで揺すられても、陸はごめんと繰り返すだけだった。  風に乗ってほのかに金木犀の香りが漂う。  甘ったるい匂いに吐き気がした。  

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