60 / 164

大人になった今でも④

 同窓会が開催されたのは、浅草の老舗ホテルの宴会場だった。学年合同のオフィシャルな同窓会とあって、当時の学年主任や担任の姿もある。  立食スタイルの会場はリラックスした雰囲気に包まれていて、それぞれが思い出話に花を咲かせていた。  ご多分に漏れず、陸も旧友に囲まれ笑顔を見せる。成海が言った通り今も地元に住んでいる者が大半だが、社会人ともなれば会う機会も減るので、こうして集まって話すのは久しぶりだった。 「でもさぁ、哲治はてっきり陸と同じ会社に就職すると思ったのに、店継いだの、意外だったよ」  陸の隣に立つ哲治に、旧友が声を掛ける。哲治は心底同意するように、深く頷いた。 「俺もそのつもりだったけど、親父が倒れたから仕方なく。今でも心配だよ。陸が会社で困っていても、すぐに助けてやれないんだから」 「お前は相変わらず陸の保護者みたいだなぁ」    その場にいた元クラスメイト達は、懐かしそうに笑い合う。 「今日もこの後、店に戻らなきゃいけないんだ」 「忙しいんだな。じゃあ哲治は二次会、不参加か。陸はどうするの」 「陸も行かないよ」  陸が口を開くよりも先に哲治が答えたので、もう頷くしかない。 「うん。……片付けなきゃいけない仕事、残してて」 「そっか。実は俺も二次会はパスしようと思ってたんだよね。さっきトイレ行った時に気付いたんだけどさ、隣の会場でモデル事務所の記念パーティーやってんだぜ。スタイル抜群の美人がいっぱいいたから、ちょっと声かけてみようかと」  旧友のうちの一人がそう言って企んだような顔をすると、ドッと笑いが起きた。 「はぁ? お前、無謀過ぎるだろ。モデルに相手にされるわけねーじゃん」 「いいだろ挑戦するくらい」  どこまで本気で言っているのかわからないが、ムキになって反論する旧友に陸も声を上げて笑う。こうしてふざけ合っていると、あの頃に戻ったような気がするから不思議だ。

ともだちにシェアしよう!