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大人になった今でも⑤
ふいにトークアプリの通知音が鳴り、談笑しながら哲治はポケットからスマホを取り出した。画面を確認し、露骨に顔をしかめる。
「店が混んできたから、調理場親父だけじゃキツイって。もうちょっと居たかったけど、俺、もう戻るわ」
「そっか、最後までいられなくて残念だな。今度俺たちも店に行くよ、またゆっくり話そう」
「ああ、待ってる。また連絡するよ」
言いながら、哲治が陸を見た。「一緒に帰るぞ」と言われているような気がしたが、陸は目を伏せて気づかないふりをする。
せめて一次会が終わるまでは、この会場にいたかった。もしかしたら清虎が来るのではないかと、淡い期待が捨てきれない。
哲治は陸を連れ帰ることを早々に諦め、小声で「帰ったらメールして」とだけ告げて会場を後にする。立ち去る背中を見て、ホッとしてしまう自分が嫌だった。罪滅ぼしのような気持で哲治の側にいるが、これが正しい選択でないことは陸も解っている。それでも結局、いつも哲治の視界にいるようにしてしまうのだが。
しばらく歓談が続いたが、ついにお開きの時間になり、陸は残念そうに溜め息を吐いた。
これで良かったのかもしれない。そう思いながら会場の出口に向かった陸を、遠藤が呼び止める。
「陸くん帰っちゃうの? 二次会行こうよ」
「いや、俺はいいよ」
「えー。せっかく哲治がいないのに」
「なんで哲治の名前が出てくるの」
「だって、私が陸くんに近づこうとすると、絶対邪魔するんだもん。中学の時からずっとそうだよ」
頬を膨らませ、わかりやすく怒ったポーズを取る。あざとい所は変わらないなぁと思いながら、陸は苦笑いした。
「あ、中学の時と言えば、清虎くんもそうだったな。陸くんに近づくの、止められたっけ」
「なに、それ」
急に清虎の名前が出たので、陸の心臓が跳ね上がる。
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