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大人になった今でも⑨
『囚われないように見ていてあげて』
それほどまでに気にかけてくれた清虎を、ズタズタに切り裂いて傷つけたのは、他ならぬ自分だ。やり場のない口惜しさがこみ上げる。
「陸くんごめん。事情も知らないのに踏み込み過ぎたかもしれない」
「いや、大丈夫。遠藤さんと今日、話せて良かった」
清虎のことも運動会の日の出来事も、誰かと話したのは初めてだった。もっと苦しくなるものかと思ったが、化膿した部分を取り除くための必要な切開だったのかもしれない。むしろ楽になった気がして、申し訳なさから今度は罪悪感に苛まれる。
「月並みなことしか言えないけど、何かあったらいつでも相談に乗るからね。っていうか、二次会行こうよ。良かったら、もっと聞くよ?」
「うん、ありがとう。でも、今日はやっぱりやめておく」
遠藤が安心するように、なるべく穏やかな表情を作った。まだ何か言いたそうだったが、遠藤は渋々引き下がる。
「じゃあ、近いうちにお茶でもしよ?」
「そうだね」
二次会に向かうグループに呼ばれ、遠藤は陸を気にしながらもそちらに戻った。軽く手を振って、陸はその集団を見送る。一緒にエレベーターに乗ってしまったら、強制的に参加させられそうだ。
「少し時間をずらして帰るか」
エレベーターの扉が閉まるのを見届けてから、陸は上階へ行くボタンを押した。バーラウンジで一杯だけ飲んで帰ろう。気持ちを切り替えるのにも丁度いい。
到着したエレベーターに乗り込むと、若い女性が五、六人ほど同乗してきた。ヒールのある靴を履いているせいか、どの女性も陸と同じくらいの身長かむしろ高いくらいで、圧倒されてしまう。
洗練された華やかな装いに負けないほどの美形揃いで、そう言えばモデル事務所の記念パーティーを隣の会場でやっていたんだっけと、旧友との会話を思い出した。
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