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 零とぶつかった廊下は薄暗く、その上長い髪が邪魔をして表情をちゃんと確認することが出来なかった。それはこの部屋に来てからも同様だ。  零の顔を、真正面から見て確かめたい。 「俺にキスしてくれませんか」    腕の中で零の体がぴくりと動いた。一拍置いた後、小さな笑い声が聞こえてくる。 「急に積極的ですね。どんな心境の変化? キスですか、いいですよ。でも、唇以外にね」  零が陸のワイシャツのボタンを外していく。キスすれば必然的に顔を見合わせることが出来ると思ったのだが、上手くかわされてしまった。はだけた陸の上半身を、零の指が撫でていく。  陸は目を閉じて、運動会の日の情景を思い出していた。  西日が差し込む教室に、浮かび上るシルエット。  零の唇が陸の心臓の辺りに落ちる。見えていなくても、零の動作を脳裏に鮮明に再現することができた。机に優しくキスをした、きっとあの時とおんなじだ。  陸は零の背中に手を回して輪郭を確かめるように撫でた。細身で華奢な見た目に反して、鍛えられた硬い筋肉の感触。 「佐伯さんから私に触れるのは駄目」  背中に回した腕から逃れた零が、陸のネクタイをするりと解いた。そのネクタイで陸の目元を覆うように結び、視界を奪う。  零の舌が横腹を這い、ゾクゾクして陸の体が跳ねた。舌はゆっくり焦らすように上に向かって移動し、胸の突起を舐めあげる。思いがけない刺激に、陸の口から小さな呻き声が漏れた。 「随分と敏感なんですね。誰に開発されたの」  迫るような声。  視界を奪われたおかげで、耳が冴えているのかもしれない。零の容姿から、当然女性の声だと思い込んでいたが、こうして聞くと多少の違和感がある。 「誰にも……触られたことなんて、ないです」  吐息混じりに陸が答えると、零は再び「嘘吐き」と非難した。 「未だに誰のものでもないなんて、そんな訳あるはずない。誰も触れてないなんて、そんなこと」 「本当だってば。……あッ」  零が胸の尖りに歯を立てる。もう片方の乳首を指で捏ねられ、陸の体はビクンと震えた。腰のあたりがじわじわ熱を帯びていく。  零の手がなぞるように下半身に降り、ベルトが外される音が聞こえた。  陸は一度だけ零の手を掴んだが、すぐに力を緩めて抵抗をやめる。  これも、罪滅ぼしかもしれない。  目隠しのせいで目を開けていても閉じていても真っ暗だった。その暗闇に問いかける。  ねえ清虎、どうして今になって会いに来てくれたの。

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