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自己嫌悪の塊③

「私の何をそんなに気に入ったの。髪型? それとも服装? 似たような人は山ほどいるでしょ。早く代わりを見つけてね」 「あなたの代わりなんて、どこにもいないよ」  間髪入れずに反論したが、清虎はウンザリしたように溜め息を吐いた。陸に背を向けたまま、部屋のドアを指さす。 「私のこと何も知らないくせに。……もう、帰って」  陸は立ち上がったものの、その場から動けずにいた。この部屋を出たら二度と会えないかもしれないと思うと、一歩も前へ進めない。 「もう少しだけ、話しませんか」 「話すことなんかある?」 「俺はあります」 「私はない」    そう言った清虎は、両手で顔を覆った。 「あなたに言っても何のことか解らないだろうけど、私は今、自己嫌悪の塊なの」  消え入りそうな声で「もうほっといて」と懇願する。  その瞬間、今でも自分は清虎を苦しめてしまう存在なのだと気づいて、陸は息を呑んだ。清虎が逢いに来てくれたと勘違いして舞い上がり、当たり前のことを忘れてしまっていた。冷静に考えたらすぐ解るのに。  陸を許し、会えなかった時間を埋める気持ちがあるのなら、最初から零ではなく清虎本人の姿で現れただろう。  けれど清虎は今も零を演じ続け、あくまでも一期一会で終わらせようとしている。なぜ姿を偽ってまで陸の前に現れたのか疑問は残るが、とにかく拒絶されていることに間違いはない。  何年経っても自分は愚かだと自嘲しながら、片手で目を覆った。危うくまた傷つけて壊してしまうところだった。 「すみません、調子に乗り過ぎました。あなたを苦しめるつもりはなかったんです。ごめんなさい……帰ります」  清虎が顔から両手を外し、振り返り向こうとして途中でやめた。息を吐きながらゆっくり窓の外に視線を戻す。 「自分から強引に誘って引き留めた癖に、今度は帰れだなんて、傲慢で嫌な奴だと思ってるでしょう」

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