74 / 164
自己嫌悪の塊③
「私の何をそんなに気に入ったの。髪型? それとも服装? 似たような人は山ほどいるでしょ。早く代わりを見つけてね」
「あなたの代わりなんて、どこにもいないよ」
間髪入れずに反論したが、清虎はウンザリしたように溜め息を吐いた。陸に背を向けたまま、部屋のドアを指さす。
「私のこと何も知らないくせに。……もう、帰って」
陸は立ち上がったものの、その場から動けずにいた。この部屋を出たら二度と会えないかもしれないと思うと、一歩も前へ進めない。
「もう少しだけ、話しませんか」
「話すことなんかある?」
「俺はあります」
「私はない」
そう言った清虎は、両手で顔を覆った。
「あなたに言っても何のことか解らないだろうけど、私は今、自己嫌悪の塊なの」
消え入りそうな声で「もうほっといて」と懇願する。
その瞬間、今でも自分は清虎を苦しめてしまう存在なのだと気づいて、陸は息を呑んだ。清虎が逢いに来てくれたと勘違いして舞い上がり、当たり前のことを忘れてしまっていた。冷静に考えたらすぐ解るのに。
陸を許し、会えなかった時間を埋める気持ちがあるのなら、最初から零ではなく清虎本人の姿で現れただろう。
けれど清虎は今も零を演じ続け、あくまでも一期一会で終わらせようとしている。なぜ姿を偽ってまで陸の前に現れたのか疑問は残るが、とにかく拒絶されていることに間違いはない。
何年経っても自分は愚かだと自嘲しながら、片手で目を覆った。危うくまた傷つけて壊してしまうところだった。
「すみません、調子に乗り過ぎました。あなたを苦しめるつもりはなかったんです。ごめんなさい……帰ります」
清虎が顔から両手を外し、振り返り向こうとして途中でやめた。息を吐きながらゆっくり窓の外に視線を戻す。
「自分から強引に誘って引き留めた癖に、今度は帰れだなんて、傲慢で嫌な奴だと思ってるでしょう」
ともだちにシェアしよう!