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自己嫌悪の塊⑤

 ホテルから出た陸は気分を変えるようにスマホを開き、ホッとした表情を浮かべた。哲治は店が忙しく、手が離せないのだろう。帰宅していないことを咎めるような連絡は、まだ来ていなかった。  同窓会の終了時刻が長引いたこと。帰りがけに遠藤に捕まって時間を取られたこと。二次会に無理に連れていかれるのを避けるため、ラウンジで少し時間を潰していたこと。今帰っている最中だということ。  嘘と真実を混ぜながら遅くなった理由を並べ、哲治に言い訳がましいメッセージを送った。家に着いたらもう一度「着いた」とメッセージを送ろう。それで哲治は満足する。  こんなことを遠藤が知ったらどんな顔をするだろうなと、陸は苦笑いした。 「きっと、『それはおかしい』って怒ってくれるんだろうな」  (いびつ)な関係だ。友人としての範疇をはるかに超えている干渉度合は、誰の目から見ても異常だろう。    人影の少なくなった花やしき通りを歩いている途中、陸は「あっ」と思い出したように声を上げて立ち止まった。横道に目をやり、その先にあるはずの建物を思い浮かべる。はやる気持ちを抑えながら、手にしたスマホで大衆劇場の公演スケジュールを検索し始めた。 「やっぱり……」  大衆劇場のホームページには、今月公演中の劇団が紹介されている。その中で一際目を引く女形(おやま)がいた。写真の横には「城鐘(しろがね) 零」という文字が添えられている。 「間違いない、清虎だ。浅草で公演していたんだ」  名前も異なる上に舞台用のメイクをしているので、誰も清虎だと気づかないだろう。陸でさえ「零」という名前を知らず、女装した清虎を見ていなかったら、見逃していたに違いない。  写真の清虎は花魁に扮し、天女のように微笑んでいた。世が世なら、清虎を巡って武将たちが戦を始めてしまうのではないかと思う程に美しい。 「見つけた」という歓喜と、「もう近づいてはいけない」という悲哀がせめぎ合い、陸の体は砕け散りそうになる。  ひと目でもいい、遠くからでもいい、また会いたい。  でも。  湧き上がる感情を奥の方に押し込めて、陸はスマホを胸に抱きながら家路を急いだ。

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