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合縁奇縁②

 陸が勤めているのは、中小飲料メーカーだった。  飲料メーカーと言っても扱う商品はペットボトルや紙パックではなく、業務用の冷凍したジュースやデザートに使うフルーツソースなどだ。  取引先は主に飲食店やホテルのレストランで、新メニューの企画や提案をすることもある。  どうせ就職するのなら、実家の役に立ちそうなところが良いと考えて決めた会社だった。栄養士の資格が取れる大学を卒業したおかげで、新卒にもかかわらず企画部で採用された。あまり人と関わりたくなかったので営業部でないことに胸を撫で下ろしたのだが、実際は営業と組んで動くことも多い。  最近では本格的に企画に携わるようになり、それなりにやり甲斐も感じるようになっていた。  すぐに深澤から社内メールが届き、仕事が早いのはあなたもでしょう、と思いながらメールを開く。  陸が既に得ている情報以外に、取引相手の嗜好や避けた方が良い話題などまでが親切に書かれていて、「豪快そうに見えて案外きめ細やかなんだよなぁ」と陸は思わずうなる。  翌日、深澤と佐々木とクライアントに赴き、提案した企画で新商品の共同開発が決まった。大手の飲食チェーン店のデザートで、中々の成果だ。  深澤は「佐伯くんがいれば心強い」と言っていたが、陸の出番はそれほど多くはなかった。それでも深澤は、クライアントの本社ビルから外に出ると上機嫌で陸の背中を叩く。 「いやぁ、やっぱ佐伯くんがいてくれると、話がスムーズで助かるよ」 「俺、特に何もしてないですよ」 「そんなことないよ。佐伯くんの話し方とか仕草は品があるから、クライアントさんも佐伯くんの説明は良く聞いてくれるんだよね」  そうだろうかと疑問に思いながら首を傾げる。  深澤が腕時計に視線を落としたので、つられて陸も自分の時計をチラリと見た。もうすぐ十七時になろうとしている。 「さて、今日は直帰の許可を貰って来たんだ。もし二人ともこの後に予定がないなら、ちょっと俺の行きたいところに付き合ってくれない?」 「予定はないのでお供しますよ。どこへ行きますか」  陸が問い返すと、深澤は悪戯っ子のように、ニッと笑った。 「浅草の茶益園」

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