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合縁奇縁⑤
「商品化は今のところ考えておりませんが、もし機会があればよろしくお願いしますね」
可能性を残しつつ、やんわり深澤の申し出を辞退する成海の答え方も、商売人らしいなと陸は思った。
「では、ごゆっくり」
調理場へ下がる成海の背中を見ながら、「佐伯くんとお兄さん、似てるね」と佐々木に言われ、陸はくすぐったいような顔をする。
「これ、甘過ぎなくて美味いなぁ。それにしても、久しぶりに浅草に来たよ。少し観光して帰ろうかな」
生茶のゼリーを口に運びながら、深澤が楽しそうに笑う。深澤の言葉に佐々木も頷いた。
「パフェも絶品ですよ。あっ、私も観光したいです」
「じゃあ、俺が案内しましょうか」
「いいの? 地元の人に案内して貰えるなんて有難いよ」
構いませんよ、と陸は笑顔で答える。浅草に興味を持ってもらえるのは、素直に嬉しい。
店を出た後、二人の要望で浅草寺と仲見世を案内した陸は、「他に行きたいところは?」と尋ねた。
「私、花やしきも見てみたい。外からチラッと眺めるだけで良いから。昔ながらの建物好きなんだよね」
「うん、いいよ」
浅草寺の横を通り抜けようとした陸は、いつもの癖で大衆劇場に向かってしまった。ハッと気づいて角を曲がろうとした時、佐々木が「あの花と提灯に囲まれた建物はなぁに」と指さす。
「あれは、大衆劇場。芝居小屋だよ」
「へぇ、大衆劇場」
深澤も興味を持ったようで、劇場の前に立つ看板を見上げた。
「物凄く綺麗な役者さんがいるなぁ。お。今、舞台の真っ最中じゃん」
「えっ、お芝居観れるんですか。行きましょうよ! 凄く浅草っぽい」
佐々木まで乗り気になってしまい、陸は慌てて二人を引き留める。
「もう十九時半過ぎてますよ。今から入ったって途中からだし、直ぐに終わっちゃいます」
「いいじゃん、それでも。雰囲気だけでも味わってみたいよ。ね、行こう」
「行きましょう、行きましょう」
深澤がさっさと三人分のチケットを買ってしまい、陸は狼狽えた。
「お、俺はここで待ってます」
「何言ってんだよ。ほら、早く来い」
深澤に手首を掴まれ階段を上る。
駄目だと思う反面、清虎にまた会えると思うと、陸の鼓動は激しくなった。
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