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合縁奇縁⑦
そうこうしているうちに、今まで流れていたアップテンポな曲からトーンを落とした艶やかな曲に切り替わる。青味を帯びた照明が点き、舞台にはスモークが立ち込めた。観客たちは居住まいを正し、食い入るように舞台を見つめる。
シャン、と鈴の音が鳴った。
それまでの祭りのような賑やかさは一瞬で掻き消え、空気が冷えて張り詰めていくのが解る。
白い霧の中から、一人の花魁が現れた。
手にした真っ赤な曼殊沙華を口元に寄せ、切なそうに客席に視線を送る。
「切なそう」と感じたのは、陸の主観でしかなかった。別の人には、はにかんでいるように見えたかもしれないし、あるいは憤っているように見えたかもしれない。
無表情と言う訳ではないのに、全く感情が読み取れなかった。その隠された感情を知りたくて、もっともっとと、観客たちは舞台にのめり込んでいく。
「清虎……」
思わず口をついて出た。陸の脳裏には、運動会で舞う清虎の姿が蘇る。
あの時も見ている者たちの心を掴んで離さなかったが、時を経て、更に洗練され進化を遂げたようだった。舞台上の清虎の存在感は凄まじく、客席全体をあっという間に支配していく。身じろぎ一つせず、陸はひたすら清虎を目で追った。
やがて曲調が変わり、少しだけ柔らかい雰囲気が舞台に帯び始める。
威圧すら感じる冷ややかな美貌の清虎が、一転して親しみやすい表情を浮かべた。
その瞬間、息をすることを許されたような気がして、急に体の力が抜ける。ずっと無意識に拳を握り締めていたようで、陸は痺れた腕をさすった。横目で深澤を見ると、瞬きするのも惜しいようで、目を見開いて一心に見入っている。
ふいに客の何人かが舞台に近づいた。
清虎はそれに気づくと舞台の端まで行って膝を折り、客から胸元に扇子のようなものを差し込まれていた。よく見ればそれは万札で、陸はぎょっとしてしまう。
「凄いなぁ、おひねりか。あ、『お花』って言うんだっけ? こんな世界があるんだな」
深澤が感心したように呟く。
再び清虎は舞台の中央に戻り、幕が引かれるまで天上の笑みを浮かべながら舞い続けた。
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