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仕方ない②

 歩き出した陸の隣に並んだ深澤は、何か言いたげな様子だった。  電話中、彼女に浮気を疑われ問い詰められていると勘違いされる程、自分は緊迫した空気を出していたのだろうか。  そんなことを考えながら、店の引き戸を開ける。 「いらっしゃい。待ってたよ」  カウンターの中から哲治に笑顔を向けられた。哲治の父親も炭火で鳥を焼きながら、「いらっしゃい」と威勢よく出迎えてくれる。  店はやはり混んでいて、カウンター席だけが空いていた。必然的に、陸たちは哲治の目の前の席に着く。  お任せで串の盛り合わせを注文し、ビールで乾杯した頃、哲治の父親が興味深そうに佐々木に問いかけた。 「お嬢さんは陸の恋人なのかい?」  ビールを吹き出しそうになった陸は、「ちょっと」と声を荒げる。 「おじさん、いきなり失礼だろ。会社の同僚だよ。変なこと聞かないで」 「なんだ、そうなのか。じゃぁお嬢さん、うちの哲治はどうだい? 働き者だし、優良物件だと思うんだけどねぇ」 「オヤジ。やめろって」  今度は哲治が(いさ)める。哲治に「すみません」と謝られた佐々木は、恐縮しながら顔を真っ赤にさせた。 「だってお前、そろそろ嫁さん貰ったっていいだろう。俺は早く結婚して欲しいんだよ」 「またその話かよ。いい加減にしてくれ」  客の前で親子喧嘩を始められてはかなわない。陸がなだめようとすると、深澤が白い歯を見せて爽やかに笑った。 「親子で一緒の職場は、距離が近くて苦労も多そうですね。でも、羨ましいな。それに、店を継ぐんですよね? 親孝行な息子さんじゃないですか」 「いやぁ、まあ、そうなんですけどねぇ」  哲治の父親は、口では不満を漏らしつつも嬉しそうな表情を浮かべる。   場の空気を一瞬で変えるのは流石だなぁと感心していたら、今度は深澤が陸の方に体を向けた。 「それにしても、佐伯くんがハッキリ物を言うのに驚いたな。地元だといつもこんな感じなの?」 「俺、そんなに普段と違いました?」  陸が聞き返すと、深澤と佐々木が同時にうなずく。 「佐伯くんとは幼馴染なんですか?」 「ええ。幼稚園から大学まで、ずっと同じ学校でした」  哲治の答えを聞き、隣で父親がははっと笑った。 「こいつらの母親同士も同級生でね。正確には、生まれる前から知り合いなんですよ」

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