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*第二十話* まるで、だまし絵

『このままじゃ二人で共倒れだ。すぐに離れた方が良い。痛みを誤魔化す為に新しい傷を作り続けて、この先は破滅しかないだろう』  深澤から放たれた言葉が、胸に刺さったまま抜けない。  遠藤の親身なアドバイスとはまた違い、深澤のは最終宣告のようだった。もう猶予はないのだと迫られているような気がしてくる。  結局、陸はメッセージを送らずに、スマホをベッドに放り投げてからバスルームへ向かった。  中学の頃からずっと続けて来たルーティーン。メッセージを一つ送らないだけで、こんなにも落ち着かないものか。  体の中に沈殿した毒を洗い流すように、熱い湯を浴び続ける。今までだって、何度か距離を置こうと試みた。それでもいつも強迫観念に負け、結局離れられなかったのだ。  シャワーを止め水滴を拭うと、憑き物が落ちたように思考までスッキリしていた。 「そっか。清虎がまた現れてくれたから、喪失感を義務感で埋める必要がないのか……」  清虎が手の届くところにいると言うだけで、用無しとばかりにあっさり哲治から離れられそうな自分が最低に思えた。  それでも、この機を逃してはいけないと自分に言い聞かせる。    部屋に戻った陸は、無造作に置かれたスマホに視線を落とす。着信が一件あり、かけ直そうと思った矢先に再び鳴り出した。もしこれが昨日なら、ビクビクしながら慌てて電話を取っていただろう。でも今、陸の心は凪いている。 「もしもし。哲治、どうしたの」 『どうしたのはこっちのセリフ。もう家にいるの? 何で連絡してくれないんだよ』 「心配させてごめんね。でも、もう『ただいま』ってメッセージを送るのは止めようと思って」  静かな声で告げる陸の言葉に、哲治は直ぐ反応できなかった。少し間が空いた後、「なんで」と低く問い返す。 「もう友情って呼ぶのも可笑しいくらい、俺たちの関係は煮詰まってるだろ。そろそろ距離を置いた方がいい。薄々感じてたでしょ? このままじゃ駄目なことくらい」 『アイツに何か言われたのか』  アイツとは深澤のことだろうかと考えながら「うん」と答えた。

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