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まるで、だまし絵②

「色々助言を貰ったのは事実だけど、俺自身も目が覚めたんだよ。今までさんざん哲治に甘えて来たのに、勝手なこと言ってるのは自覚してる。でも、今が潮時だと思う」  陸の真剣な訴えにも哲治は鼻を鳴らし、小馬鹿にしたようにせせら笑う。 『目が覚めたって何だよ。まるで俺たちが、まやかしの中にいるみたいじゃないか。陸のことを一番理解してるのは俺だし、俺のことを一番理解してくれてるのは陸だ。そうだろ? 俺たちは、今のままいるのが一番幸せなんだよ』  いつものように、威圧的にまくしたてられた。平行線の議論に嫌気がさして、普段ならここで陸が折れていただろう。けれど、陸は怯まず反論した。 「お互い探り合うような、信頼なんか全くないこの状態が幸せなの? こんな息苦しい関係じゃなく、普通の友人に戻りたいよ」 『普通の友人? そもそも俺たちの関係は、友人とか恋人とか、そんな表面的な言葉では表せないだろ。もっと深く繋がってるんだから』 「違う、繋がってるんじゃない。繋がれてるんだ。もうお終いにしよう」  きっぱりと陸が言い切った後、しばらく沈黙が続いた。ようやく哲治がいつもの陸とは違うと理解したようで、先ほどとは打って変わって優しい声色で語りかける。 『陸。この話はまた今度、ゆっくりしよう。まだ酒が残ってるんじゃない? 金曜だし、疲れも出ただろ。もう寝た方が良いよ。こんな遅くに電話してごめんね。おやすみ』  威圧された後の優しさにホッとして、早く解放されるために「おやすみ」と告げてしまいそうになる。それを何とか堪えて、陸は話を続けた。 「しばらく距離を置こう。少し離れれば、哲治も冷静さを取り戻せるよ。そうしたら、また友人として会おう。ねぇ哲治お願いだよ。解って」  陸は懇願したが、電話の向こうの哲治は溜め息を吐いただけだった。伝わらないもどかしさに涙が出そうになる。 『誰に何を言われたのか知らないけど、そんなの到底受け入れられないよ。とにかく、また明日改めて話そう。冷静さを取り戻さなきゃいけないのは、陸の方だ』  じゃあねという言葉を残して、電話は一方的に切られた。何一つ話を聞いてもらえず、虚しくて天井を仰ぐ。  突拍子もないと思ったルームシェアという案が、急に現実味を帯びた。

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