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まるで、だまし絵③
二人の会話は平行線と言うより、まるでだまし絵のようだった。
エッシャーの滝やペンローズの階段を思い出し、陸は気が遠くなってベッドに倒れ込む。どれだけ階段を上り続けてもいつの間にか元の場所に戻り、永遠にループを繰り返すのだ。滑稽過ぎる。
哲治が欲しがっているのは、自分の意のままに動かせる、ままごと遊びで使うのに丁度良い人形なのだろう。または、今にも消え入りそうな弱り切った小動物。哲治の助けが無いと生きていけない、憐れで無力な存在。
間違っても自分の意志で動いたり、逆らったりしてはいけないのだ。
勘弁してくれと思う。
無茶な要求をする哲治にも、それを今まで許してきた自分自身にも。
哲治に困惑や反発しながらも従っていた間は、清虎のことを考えずに済むので楽だった。従順になることは罪滅ぼしだと言いながら、なんのことはない、ただの現実逃避だったと思い知る。
哲治も酷いが、自分も狡い。
哲治が陸に人形になることを求めたように、陸は哲治が麻酔になってくれることを望んでいた。寄生虫のように宿主を蝕み続け、涼しい顔で自分の傷だけを癒す。
「ごめん。哲治……」
冷静になればなるほど、眩暈のするような関係だったと気づく。深澤が破滅しかないと表現したのも頷けた。
現 の世から隠れるように、陸は頭から毛布をかぶって目を閉じた。瞼の裏に、花魁姿の清虎が鮮やかに浮かび上がる。
舞台上の清虎は、気安く人を寄せ付けないオーラを放っていた。神々しさと禍々しさは紙一重なのかもしれない。まるで妖しく光る日本刀のようで、神秘的でもあるし、不気味で恐ろしくもあった。
だから帰り際、久しぶりに正面から見た清虎の表情が、化粧をしていても昔と変わらない雰囲気で少しだけホッとしたのだ。「どっちが恋人だ」と意地悪く尋ねた顔など、完全に子どものようだった。
昔は見上げていた目線が今では同じくらいの高さになっていて、距離が近くなった分、息苦しくなるほど胸が熱くなった。
「でもあと半月で、またいなくなる……」
哲治と自分を縛る、絡まった鎖を断ち切らねば。
今からきちんと、一人になる覚悟をしておこう。
もう誰も壊さないように。傷つけないように。
深澤を、次の宿主にしてしまわないように。
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