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まるで、だまし絵④
哲治が陸の部屋にふらっと現れたのは、翌日の夜だった。
自室で休み明けに使う資料をまとめていると、階段を上って来る足音が聞えた。成海が仕事を終えて戻ってきたのだろうと思っていたら、次の瞬間ドアをノックする音が部屋に響く。
「どうぞー」
成海だと思い込んでいた陸は、呑気に間延びした返事をした。開いたドアに顔を向け、驚いて目を見開く。すぐに言葉が出てこなかった。
「陸の部屋、久しぶりだなぁ」
一歩足を踏み入れた哲治が、懐かしそうに部屋を見回す。中高生の頃までは部屋を行き来することもあったが、大学に入ってからはお互い忙しく、滅多に訪れることもなくなっていた。
陸は手元のノートパソコンに視線を落とす。時刻は十九半を過ぎた所だ。
「……哲治、店は」
「今、そんなに混んでないから親父に任せて来た。でもすぐに戻るよ。陸、ちょっと出よう。付き合って欲しい所があるんだ」
どこへ、とは聞けない雰囲気があった。けれど行き先は何となく見当がつく。
「わかった。行こう」
ほんの少し、哲治が意外そうな顔をする。陸が怪訝そうに「何?」と聞けば、「別に」と返ってきた。
断られると思ったんだろうなと考えながら、哲治と一緒に階段を降りる。
「ちょっと出てくるね」
台所にいる母親に声をかけると、「あらぁ」と残念そうな顔をされた。
「これからご飯作るから、哲治くんも食べていけばいいのに」
「すみません。また今度、時間のある時に来ますね」
申し訳なさそうに頭を下げ「お邪魔しました」と告げる哲治を見ていると、まるで学生の頃に戻ったようで複雑な気持ちになる。外に出て先を歩く背中を眺めていたら、その想いは一層強くなった。
哲治との思い出は、辛いことと同じくらい楽しいこともたくさんあったのに。こうして一緒に歩いていると、笑いあって下校したあの頃に戻れるような気がして、こんなにこじれるまで目を逸らし続けた自分を恨めしく思った。
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