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まるで、だまし絵⑥
もしかすると、陸の目も同じように仄暗い色をしていたのかもしれない。哲治から陸を警戒するような気配が感じられたが、お互い様だなと小さく息を吐いた。
無言のまま歩き続け、店に着いた陸は哲治に促されてカウンター席に座る。
店内には五組ほどの客がいたが、哲治の言った通り混んでいると言うほどでもなく、休日らしいゆったりとした空気が流れていた。
「おう。陸、いらっしゃい。土曜に来るのは珍しいな。飯は食って来たのか? まだなら唐揚げ定食にするか」
「ああ、えっと。飯はまだだけど唐揚げ定食って気分でもないから、とりあえずビールください」
せっかく唐揚げを勧めてくれた哲治の父親に、申し訳なさそうに告げた。腹が空いてない訳ではないが食欲が湧かず、食べたいものが思い付かない。
「陸、何か食ってから飲め。そのうち本当に体壊すぞ。腹減ってない訳じゃないんだろ? オヤジ、いいよ。陸のは俺がやるから」
カウンターの中に戻り調理用の白衣に袖を通しながら、哲治が陸の内心を見透かしたように言う。手際よく調理を始めたかと思ったら、あっという間にどんぶりを目の前に置かれた。
中を覗けばそれはマグロの漬け丼で、赤味の上に散らされた白ゴマと大葉の緑が食欲をそそる。
「これなら食えるだろ。卵黄も落とす?」
「うん」
白米の量が少なめなのも有難い。「美味そう」と思わず呟いてしまい、何もかもお見通しの絶妙なチョイスに少し悔しくなった。
一口頬張ると哲治が満足そうな笑みを浮かべる。うっかりしていたら、またいつものペースに流されてしまいそうだ。
「なんで清虎をここに呼んだの」
流れに逆らうために、聞きたいことを口にした。
以前なら気になっても黙っているか、もしくはもっと遠回しな言い方で尋ねたかもしれない。単刀直入な陸の質問に、哲治が無表情のまま首を傾げる。
「陸は会いたくなかったの?」
「会いたかったけど、会えない。多分、清虎は俺の顔なんか見たくもないだろうから。哲治は清虎に会いたかったの?」
「会いたかったよ。ずっと」
「どうして」
哲治は陸から視線を外し、虚ろに笑った。
「だって、記憶の中のあいつには勝てないから。だから、あいつがまた陸の前に現れてくれて、良かったと思ってる」
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