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*第二十一話* メーデー
「勝てないって……」
「中途半端な別れ方だったから、あの日からずっと陸の中に清虎がいるだろ? 今度こそ想いが残らないように、ちゃんとお別れしてもらおうと思ってさ」
また勝手なことを言っている。呆れながらビールを喉に流し込んだが、ふと考え直した。確かに区切りをつけるのは、次に進むために必要なことかもしれない。
――清虎と会うのはきっと今日が最後だ。そして恐らく、哲治とも。
「陸、何考えてるの?」
「別に。ちゃんとお別れするのは、良い案だなって思っただけ」
「本当に?」
陸は「うん」と頷きながら、持ち上げていたジョッキを静かにカウンターの上に置く。
背後で引き戸の開く音がした。
哲治の顔が一瞬強張ったので、清虎が来たのだとすぐに分かった。
「いらっしゃい」
「ひっさしぶりやなぁ。哲治は全然変わらんね。跡継いだん? 白衣めっちゃ似合 うとる」
店内に明るい声が響く。陸は振り返ることが出来ず、組んだ自分の指をじっと見ていた。
「お。哲治の友達か? いらっしゃい」
「中学の時、一回だけ連れて来たことあったろ。役者の子」
哲治の言葉で思い出したらしく、父親は嬉しそうに「あの時の」と頷いた。
「お久しぶりです」
機嫌の良さそうな声で挨拶をした清虎は、陸の隣に腰を下ろす。目の端に良い具合に色の抜けたデニムが映り、零ではなく本来の清虎の姿なんだと意識したら、余計に緊張した。
「なんや、陸。美味そうなモン食っとるやんけ」
そう言われても何も返せず、陸はただ黙り込んでうつむく。尋常じゃないほど心臓が脈を打った。
零の姿はどこか作り物めいていて、フィルター越しのような感覚があったのだが、隣に座る清虎は血が通っていて生々しい。
「清虎も陸と同じの食う?」
「あー、米は要らんかな。マグロの漬けだけ欲しい。あと中生。哲治は一緒に飲めへんの?」
「じゃあ、グラスに半分。乾杯だけ付き合うよ」
清虎の前に良く冷えた生ビールのジョッキを置き、哲治は瓶ビール用の小さなコップを手に取った。
「ほら、陸もグラス持って。乾杯しよう」
哲治に言われ、渋々顔を上げる。「乾杯」と清虎の合図でグラスをぶつけた。
茶番だと思いつつ、再会を喜んでいる自分が確かにいた。
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