103 / 164
メーデー②
恐る恐る、視線を隣の清虎に向ける。
そこには昔の面影を残した、端麗な青年がいた。
髪色は白に近い金色で、長めの前髪をかきあげた仕草にドキリとしてしまう。相変わらず肌の色が白く、紅を引いていなくても唇にはほんのり赤みが差していた。
その整った容姿に見惚れていると、前に立つ哲治が清虎に声を掛ける。
「陸が昨日、劇場に行ったんだって?」
清虎がビールを飲みつつ陸に目をやった。何となくその目が「来たと言っても大丈夫か?」と問いかけているような気がしたので、陸の方から「行ったよ」と答える。
「あない中途半端な時間によお来たな。ゆっくり観れへんかったやろ」
「連れの二人が雰囲気だけでも味わいたいって言うから。二人とも清虎のこと凄く褒めてたよ。女の子の方なんて、浅草に引っ越して毎日通いたいとまで言ってた」
あははと清虎が声を立てて笑う。
「そら役者冥利に尽きるなぁ。ありがとう言うといて」
社交辞令のような、軽く流された感じがした。
客の何組かが帰り、哲治の父親も先に仕事を上ると、元々穏やかだった店内は更に静けさを増していく。
「清虎は同窓会、来たの?」
新たなオーダーも入らないので、後片付けを始めながら哲治が問いかける。清虎は涼しい顔でビールを呷りながら、「最初だけ少し」と答えた。
「幹事の子に、俺の劇団応援してくれとるコがおってな。浅草で公演がある時は早めに知らせてくれって、ずっと言われとったんよ。わざわざ同窓会の日を公演に合わせてもろたら、行かない訳にいかんやんか。せやから、舞台の前にちょっとだけ。幹事のコらとしか会うてへんよ」
哲治が「へぇ」と相槌を打つ。最後の客が会計を済ませると、哲治は早々に暖簾をしまった。
「もう店閉めてええの?」
「どうせもう、ラストオーダー過ぎたから」
店の看板の電気を消し、哲治は白衣を脱いだ。
「俺も飲むけど、食いたいもんあったら言って。適当に作るから」
テーブル席に移動して、また改めて乾杯をする。
「あない最悪な別れ方して、一緒に飲む日が来るとは思わんかったわ。なんで今日、俺のこと呼んだん? 正直俺はもう二度と会いとうなかったで」
清虎が口の端を上げながら、冗談とも本気ともつかない言葉を呟いた。
「じゃあ、なんで」
言いかけて陸は途中で止める。
――じゃあ何であの日、俺を部屋に呼んだの。
ともだちにシェアしよう!