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◆最終幕 依依恋恋◆ *第二十二話* 迷路の途中で
石段に腰掛けた陸より数歩離れた場所で、清虎は立ったまま煙草をくゆらせた。
一服する姿も絵になる。
そんなことを考えながらペットボトルを傾け水を口に含むと、思ったよりも傷にしみた。それが顔に出てしまったのだろう。清虎が心配そうに眉間の皺を深める。
「傷、痛むん? あー、ちょっと腫れてきよったな。家帰ったら、しっかり冷やしとき」
「うん、そうする」
そう返事をして口元を拭うと、会話が途切れた。しんと静まり返った公園で無言でいるのも気まずく、陸は何か話さねばとあれこれ考える。結果的に「たまにしか吸わないんじゃなかったの。タバコ」と、どうでも良いような事を聞いてしまった。
「え? ああ、せやね。たまにしか吸わんよ。あと、イライラした時」
陸の方に煙が行かないよう、顔を背けて紫煙を吐く。
「じゃあ、あの時もイライラしてたの?」
ゲホッと清虎がむせた。「あの時」としか言わなかったが、同窓会の夜だと通じたのだろう。
「何を急に言い出すねん。あの時は……。なぁ、零が俺かもしれんって、いつ頃気付いたん」
「並んでワインを飲み始めたくらいかな。目隠しされた時には、もう確信してたかも」
「あぁ、そう。えぇ……マジか」
頭を抱え、座り込んだ清虎は呻きながら身を縮めた。
「じゃぁ、あれか。『ワインの御礼に食事でも』っつーのは、俺と解っていながら誘ったんか」
「そうだけど、もしかして気付かれてないと思ってた?」
「いやぁ。別れ際には気付かれたかもしれんと思ったけどな。まさか、そんな早い段階で見抜かれとったとは。そっか。じゃあ全部、零に言うたんやなくて俺に言うとったんか」
清虎は一人で納得したように何度か頷き、携帯灰皿の中で煙草を消した。陸は段々居たたまれない気持ちになり、視線を足元に落とす。
「無理に連絡先聞こうとしたり、顔も見たくないって言われてたのに何度も会うことになっちゃって、ごめんね」
再び沈黙が訪れる。余計なことを言って気を悪くさせてしまったかもしれない。
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