111 / 164
迷路の途中で②
長く息を吐いた後、清虎が言い難そうに話し始めた。
「ええよ、別に。あれはなんつーか、陸が零を口説いとるのかと思うて、腹立っただけや」
「なんで腹が立つの」
「さぁ。なんでかね」
ぶっきらぼうに答えられ、陸はそれ以上聞けずに口をつぐんだ。
「ほな、そろそろ行こか。送ったるわ」
「一人で大丈夫だよ」
「まぁな。哲治もさすがにあんだけ凹んどったら、追ってけぇへんやろうけど、念のため」
先に歩き始めた清虎の後を慌てて追う。暗がりの中、清虎の金色の髪がサラサラと揺れた。
「ねぇ清虎。金髪も似合うね。その色も好きだな」
「陸は相変わらず思ったこと直ぐ口に出すなぁ。そんなん言わんといて。また違う色にせなあかんくなる」
「えっ、なんで」
驚いて問い返したが、またしても清虎は口を閉ざす。これも答えたくないんだなと、陸は申し訳なさそうに俯いた。そんな陸を横目に、清虎が小さな声で抑揚なくぼそぼそ告げる。
「陸が昔、俺の黒い髪が好き言うたやんか。せやから、自分の黒髪見る度、思い出してもうてしんどかったんや。金髪も好きなんて言われたら、今度は赤にでもしようかな」
あーあ。と、清虎は子どもみたいな声を出し、頭の後ろで手を組んだ。
「赤い髪も似合いそうだね」
「せやから、やめーや」
清虎は困ったように、軽く陸を睨む。陸は静かに清虎から視線を外し、薄く笑った。
「俺のこと、思い出す時があったんだ」
「……そら、あったよ」
一拍間を空けて答えた清虎は、大股でずんずん進む。もっとゆっくりでいいのにと思いながらも、陸は歩幅を合わせ、並んで歩いた。
やがて大通りの向こう側に自宅が見えてくる。
「俺が次の街に行くまであと二週間。同じ街におるんやから、どっかでまたすれ違うかもしれへんな。そん時はまぁ、声かけてや」
「顔も見たくないんじゃなかったの」
「悔しいけど、哲治が言っとった『上書き』ってヤツや。中学ん時の記憶より、だいぶマシになったわ。せやから……今度こそ笑ってお別れしよ。もう、あんな別れ方はゴメンやで」
離別はもう決定事項なのだと理解して、陸は「そうだね」と頷く。
「送ってくれてありがとう。もう、ここで大丈夫」
「そか。腫れたとこ冷やしとき。ほな」
軽く手を挙げて立ち去る清虎の背中に、「またね」とは言わず、おやすみとだけ小さく告げた。
ともだちにシェアしよう!