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迷路の途中で④
「迷路みたいだ」
果たしてこの迷路に出口はあるのだろうか。
電話を切った陸は、両手で顔を覆って体を丸めた。
ぐるぐる延々と同じところを思考が巡る。
もっと近づきたい、清虎に触れたい。でも手を伸ばせば振り払われる。
抑制の効かなくなった哲治を思い返し、自分の姿を重ね合わせた。
――きっと自分も同じように、簡単に狂ってしまうに違いない。
「今度こそ笑ってお別れしよう……か」
また心を麻痺させ、まるで最初から清虎がいなかったように過ごすなんて、気が触れそうだ。
それでもそれを、清虎が望むなら。
割り切らねばと、何度も言い聞かせる。目の奥がやたらと熱く、ズキズキ痛んだ。
「やめよう。何度考えたって同じなんだから」
もう出口を諦め、迷路の途中でうずくまったっていいじゃないか。
溜息が目に見えるモノではなくて、本当に良かった。もし肉眼で確認出来てしまったら、この部屋はきっと、溜め息で埋め尽くされている。
時間通りに待ち合わせ場所に行くと、既に遠藤の姿があった。遠藤は陸の顔を見るなりギョッとして駆け寄ってくる。
「陸くん、何その大きなガーゼ。どうしたの」
「ええと、昨日ちょっと……」
左頬の大部分を覆うガーゼは大袈裟な気もしたが、赤黒い痣を晒したままでいるよりは幾分かマシだろう。
「それって、哲治?」
「うん。まぁ……そう」
先ほど電話した時に哲治の名を出してしまったので、今更取り繕っても仕方ないと思い、あっさり認めた。
遠藤は悲しそうに眉を寄せる。
「喧嘩? それとも、哲治が何か無茶なことしたの? そんなに酷い傷作るなんて」
「途中で清虎が止めに入ってくれたから、そんなに大ごとじゃないよ。傷も見た目ほど痛くないし」
「なんだ、もう清虎くんに会ってたんだ。……でも、その場に清虎くんがいてくれて良かった。哲治と仲直りはしたの?」
陸は軽く唇を噛んで首を横に振った。
「少し距離を置こうと思ってる。いつかまた笑って話せたら良いけどね。今はちょっと無理かな」
「そっか」
遠藤はそれ以上触れず、空気を換えるようににっこりと笑った。
「清虎くんの舞台、楽しみだね」
「そうだね」
陸も微笑みを返す。切れた口の中が少し痛んだ。
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