117 / 164
*第二十三話* 結び直した糸
ホテルの最上階にあるバーラウンジは、まだ混雑する時間帯ではないらしく、空席が目立っていた。爽やかな笑顔のウェイターに出迎えられ、カウンターとテーブル席のどちらが良いか尋ねられる。
「後からもう一人来るので、テーブル席をお願いできますか」
陸も穏やかな笑みを返すと、どうぞこちらへとウェイターは恭しく頭を下げた。夜景の見える席に通され、座り心地の良いソファに腰を下ろす。
「オーダーは、お連れ様がお見えになってからにいたしますか」
「いえ、先に。ジントニック……あぁ、やっぱりハウスワインの白をグラスで」
ウェイターがテーブルに置いたメニューを見ずに陸は答える。ここはアルコールの種類がそれほど豊富ではないので、何度か来ているうちに覚えてしまった。
「かしこまりました」
微笑んだウェイターが席から離れると、陸はソファの背もたれに体重を預け、深く息を吐き出した。
清虎と二人きりで会うことに、緊張しているのかもしれない。清虎を目の前にしたら、また思考と行動がちぐはぐになりそうだ。
気を紛らわせるように窓の外に目をやると、ライトアップされた浅草寺が見えた。なかなか幻想的な風景で、少しの間、目を奪われる。普段見慣れた景色も、高い場所から見下ろすと新鮮だ。
運ばれてきた白のグラスワインに手を伸ばし、杯を傾ける。幸い傷に沁みることもなく、ホッとした。
「清虎は深澤さんのこと気になるのかな……」
それはどうして、と尋ねたら、答えてくれるだろうか。そしてそこに、嫉妬のような感情があるのかと期待するのは、やはり自惚れだろうか。
「駄目だ。落ち着こう」
自分が浮かれ過ぎている気がして、ワインをゆっくり口に含む。程よく冷えたワインが喉を通ると、少しだけ気持ちが和らいだ。
再び視線を夜景に戻し、しばらくのんびり外を眺める。窓ガラスにこちらに向かってくる清虎の姿が反射して映り、心臓が大きく高鳴った。
「すまん、遅なった」
「全然平気。もっと時間かかると思ってた」
清虎がふわりと笑う。
久しぶりに見た優しい笑みに、陸の目は釘付けになった。
ともだちにシェアしよう!