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*第二十三話* 結び直した糸

 ホテルの最上階にあるバーラウンジは、まだ混雑する時間帯ではないらしく、空席が目立っていた。爽やかな笑顔のウェイターに出迎えられ、カウンターとテーブル席のどちらが良いか尋ねられる。 「後からもう一人来るので、テーブル席をお願いできますか」  陸も穏やかな笑みを返すと、どうぞこちらへとウェイターは恭しく頭を下げた。夜景の見える席に通され、座り心地の良いソファに腰を下ろす。 「オーダーは、お連れ様がお見えになってからにいたしますか」 「いえ、先に。ジントニック……あぁ、やっぱりハウスワインの白をグラスで」  ウェイターがテーブルに置いたメニューを見ずに陸は答える。ここはアルコールの種類がそれほど豊富ではないので、何度か来ているうちに覚えてしまった。 「かしこまりました」  微笑んだウェイターが席から離れると、陸はソファの背もたれに体重を預け、深く息を吐き出した。  清虎と二人きりで会うことに、緊張しているのかもしれない。清虎を目の前にしたら、また思考と行動がちぐはぐになりそうだ。  気を紛らわせるように窓の外に目をやると、ライトアップされた浅草寺が見えた。なかなか幻想的な風景で、少しの間、目を奪われる。普段見慣れた景色も、高い場所から見下ろすと新鮮だ。  運ばれてきた白のグラスワインに手を伸ばし、杯を傾ける。幸い傷に沁みることもなく、ホッとした。 「清虎は深澤さんのこと気になるのかな……」  それはどうして、と尋ねたら、答えてくれるだろうか。そしてそこに、嫉妬のような感情があるのかと期待するのは、やはり自惚れだろうか。 「駄目だ。落ち着こう」  自分が浮かれ過ぎている気がして、ワインをゆっくり口に含む。程よく冷えたワインが喉を通ると、少しだけ気持ちが和らいだ。  再び視線を夜景に戻し、しばらくのんびり外を眺める。窓ガラスにこちらに向かってくる清虎の姿が反射して映り、心臓が大きく高鳴った。 「すまん、遅なった」 「全然平気。もっと時間かかると思ってた」  清虎がふわりと笑う。  久しぶりに見た優しい笑みに、陸の目は釘付けになった。

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