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結び直した糸②

 清虎はウェイターに「ウイスキーのハーフロック」と告げ、陸の向かい側に座った。 「銘柄はいかがいたしましょう」 「マッカランがあればそれで。なければお任せします。陸は? もうグラス空きそうやん。もう一杯くらい飲んだら」 「そうだね。じゃあ、グラスワインの白をお願いします」  オーダーを済ませウェイターが下がると、急に気恥ずかしくなる。手持ち無沙汰を誤魔化すように、陸は意味もなくグラスの中に残るワインをくるくる回した。 「陸はワインが好きなん?」 「本当はジントニック頼もうとしたけど、ライムが傷に沁みそうだからこっちにした。ワインも好きだけどね」 「ふーん」  ソファに深く腰掛ける清虎の視線が、陸の頬に向く。 「それ……痛む?」 「もうそんなに痛くない。ワインも沁みなかったよ」  大丈夫と言うように、残ったワインを飲み干した。ほどなくして、二杯目のワインとウイスキーが運ばれてくる。  グラスは合わせず、軽く杯を持ち上げるだけの乾杯をした。  互いに会話の糸口を探すような、何となく気まずい空気が流れる。  何から話そうか思案していると、沈黙に耐えきれなくなったように首筋をさすりながら、清虎が大きなため息を吐いた。 「俺な、こう見えても大衆演劇の世界じゃ、そこそこ名前知られるようになってきてん。妖艶やとか魔性やとかミステリアスやとか、みんな芝居めっちゃ褒めてくれんねんけど……。なんや、陸見とったら自信なくなってくるわ」  唐突に話し出す清虎に、陸は目をパチパチさせる。 「え、どういうこと。何で俺を見ると自信なくすの」 「だって俺、陸にあないなコトしたやんか。そんでも陸は次に会うた時、少しも表情変えんで、しれっと仲良う手ぇつないで恋人と来よるし。かと思えば、今日は遠藤さんと一緒やろ、訳わからん。挙句の果てには、俺に向かって好きやって言う。ホンマ何なん? どんだけ俺のこと翻弄する気や。俺、悪女の役やることなったら、陸を参考にさせてもらうわ。ホンマの魔性って、陸のことやで」  清虎は、ヤケ酒のようにウイスキーを喉に流し込んだ。陸は首を傾げ、少しムッとした表情を作る。清虎を翻弄したとは心外だ。 「清虎が何言ってんのかわかんない。俺、次に会った時、凄く動揺してたよ。それから、何度も言うけど深澤さんは恋人じゃない。じゃあ逆に聞くけど、何で同窓会の時、零の姿で会いに来たんだよ」

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