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結び直した糸③
「はぁ。天然ってホンマ怖いわ、無自覚かいな。まー、そうやったね。陸は昔っから、こっちが赤面するようなこと、真顔で言うてきたっけ」
暫く睨みあったが、先に清虎が折れた。観念したように項垂 れて、前髪をぐしゃぐしゃ乱暴に掻く。
「何で俺が零の姿で現れたかって? そんなん、陸を試すためや。哲治と付き合うてるのか、それともノンケなのか。陸が零にめっちゃ言い寄るから、ホンマ腹立ってしゃーなかったわ。やっぱ女の子の方がええんやなぁって。そんなら俺は、身ぃ引くしかないやんか。普通に誰かと結婚して、幸せになったらええと思ったんよ」
清虎は勢いよくウイスキーを呷り、言葉を続ける。
「せやけど、せっかく諦めようとしとんのに、今度は深澤なんかと一緒に住むって言うやんか。男でもええなら、何で俺じゃアカンのって思うやん。もし俺が一カ所に留まれたら、選んでもらえたんかなって。でもそんなん無理やし、だからもう、陸には近づかんとこうって決めたんや。それなのに……」
清虎が手の中にあるグラスを揺らすと、氷がカランカランと澄んだ音を立てた。琥珀色の液体は、もう半分も残っていない。
「俺、ホンマは同窓会の日、迷っててんなぁ。陸の姿見たらそれでもう充分やから、声かけずに帰ろうかなって。何であの時、急に振り返ったん。ぶつかりさえしなければ、話すこともなかったのに。……あの日、すれ違ってそのまま離れれば良かった」
後半になるにつれ、声がどんどん小さくなっていった。清虎はグラスに視線を落とし、打ちひしがれる。
陸は清虎の胸の内を知り、しばらく言葉が出なかった。ワイングラスを口元に運びかけて中途半端に持ち上げたまま、清虎の顔をジッと見つめる。
「俺、ずっと清虎に恨まれてると思ってた。中学の時あんなに酷いことしたから、顔も見たくないんだろうって」
清虎はゆっくり顔を上げ、陸と視線を合わせた。
「まぁ、トラウマもんやったけど、もう恨んではおらんよ。でも、そうやな。すまん、恨んどるフリはしとったかも。そうでもせんと、陸から離れられんかった」
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