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結び直した糸④

 恨んでいないという言葉を聞いて、陸は少しの間、放心した。(ゆる)されていたという事実を知り、指先に体温が戻ってきたような気がする。それと同時に、自分から離れていこうとする清虎を恐ろしく感じた。  二度と会わないと覚悟を決めたはずなのに、手が届くと解ってしまえば、もう失うことなど考えられない。  テーブルを挟んで向かい合う、この距離すらも遠く感じてもどかしかった。 「今は俺から離れる理由、なくなったんだよね?」  陸が恐る恐る尋ねる。清虎は僅かに首を傾けて、陸から視線を外した。 「まだ、ピンと来ん。だって大人になった陸は、いつも淡々として俺に興味あるようには見えんかった」 「それは多分、俺が感情を殺すのに慣れちゃっ……」  陸は言葉の途中で、余計なことを言ってしまったと口を押さえる。案の定、清虎の表情はみるみる曇っていった。 「俺も陸に謝らなあかんな。運動会の後に相当酷いコト言うてしもたから。今でも引きずっとるとは思わんかった。ホンマ、ごめんな」 「ちがっ、違う違う。清虎は悪くない。俺の自業自得だし、哲治との兼ね合いもあったし」  慌てて否定したが、清虎は片手で目を覆ってガックリと肩を落とした。運動会のあの日、二人を結ぶ糸は一度千切れてしまった。せっかく結び直せたこの糸を、手放すまいと陸は食い下がる。 「ねえ清虎。俺、清虎以外を好きになったこと無いから、自分が同性愛者なのか異性愛者なのかわかんないけど、多分、清虎が女の子でも好きになってたよ」 「……そうやろか。そう言うてもろても、さっきまで陸を諦めなアカンと思うとったから、まだ全然頭と心が繋がらへん」  潤んだ目の清虎は、迷子の子どものようだった。ソファに深く沈みこませていた体を起こし、テーブルに身を乗り出す。 「ホンマに? ホンマに陸は、俺のことちゃんと好きなん? 猫が好きとか唐揚げが好きとか、そう言う種類の好きちゃうぞ。わかっとる?」  当たり前だとうなずきかけた時、隣のテーブルに客が案内されてきた。  あまり他人に聞かれたくないなと思いながら、陸は周囲を見回す。まだそれほど席は埋まっていないが、店の入り口には何人かの客がいて、これから混み出すような雰囲気があった。  二人のグラスは既に空いている。 「場所変えて飲み直すか。まだまだ話し足りんやろ」  帰ると言われなかったことに安堵しながら、清虎の提案にうなずいた。

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