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結び直した糸⑥

 エレベーターの扉が開く前に離れなければ。そう思いながらも、ギリギリまで唇を重ねてしまった。一階に到着したことを知らせるチャイムがとても憎らしい。  外に出ると、ひんやりした夜気が頬を撫でた。少しだけ冷静さを取り戻し、この時間から落ち着いて飲める店はどこだろうと、頭の中でいくつか候補を絞る。清虎はデニムのポケットに手を突っ込んで、逡巡するように視線を彷徨わせながら、陸に一案を示した。 「あのさぁ。俺、この近くに部屋借りとんねん。今から来ぇへん? 店よりゆっくり話せるやろ」  清虎の部屋と言う思いもよらなかった提案に、陸は大きくうなずいた。どんな立派な個室の店より落ち着けそうだ。 「いいの? 行きたい」 「ほんなら、こっち」  大通りから外れた道を清虎は進んで行く。この辺りは小さな古い店舗と新しいマンションが混在し、道幅もそれほど広くなくて静かだ。「この近く」と言った通り、すぐに小綺麗なマンションに到着した。 「民泊?」 「いや、大衆演劇ファンのオーナーが、マンスリーマンションを役者に格安で貸してくれんねん。有難いよなぁ」  清虎は鍵穴にキーを差し込みドアを開けた瞬間、何か思い出したように陸を振り返った。 「そういや、零が俺って気付いたんは、ワイン飲み始めてからやんなぁ? そしたら、零が誰か解らん状態で部屋に入ったん? ホンマ陸は危なっかしいなぁ。気ぃつけや」 「いや、だってあの時は、怪我させちゃったって言う負い目があったから」  もごもご言い訳をしながら部屋に上る。  清潔感のある白色系のフローリングに真っ白な壁。クローゼットと入口の扉は木目の綺麗な雀色で、良いアクセントになっていた。電子レンジと小さな冷蔵庫以外の家電はなく、備え付けのミニキッチンもあまり使われていなそうだ。殺風景な十帖ほどのワンルームは、長く暮らすには不便そうだが、寝に帰るだけなら充分な環境だろう。  清虎は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、一本を陸に差し出す。 「ビールでええ?」 「うん、ありがとう。いいなぁ一人暮らし」  ポツリと呟いた陸の独り言に、清虎はあっと声を上げた。 「せや、深澤。それ聞かな思うてたんや。アイツと暮らすってどう言うことなん」

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