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結び直した糸⑦
「ああ、それは方便と言うか……。家を出て哲治と離れようとすると、あいつは付いて来るって言うでしょ。だから深澤さんがルームシェアを提案してくれたんだ。もちろん断るけど、その設定は使えるなと思って言っただけ」
「なんや、じゃあ一緒に暮らすわけちゃうんか」
清虎は安堵したようにベッドに腰を下ろし、缶ビールのフタを開ける。プシュッと炭酸の抜ける心地良い音が部屋に響いた。缶ビールに口を付けながら、清虎がベッドをポンポン叩く。
「すまん、この部屋ソファも座布団もないねん。ここ座って」
部屋の真ん中に突っ立ったままでいた陸は、頷きながら清虎の隣に腰掛けた。ビールをちびちび飲む陸を見て、清虎が心配そうに顔を覗き込む。
「痛々しいなぁ。ホンマに哲治のヤツ、なんちゅーことすんねん」
「炭酸が沁みそうで様子見しただけ。痛くないよ」
清虎は陸の頬に貼られたガーゼを撫で、視線を少し下げてハッとした。
「首にも指の痕がうっすら残っとるやん」
陸が着ていたシャツの襟を少し開いて、清虎が眉を曇らせる。
「そんなに目立たないでしょ? 大丈夫だよ」
「大丈夫なんて簡単に言うなや。俺が大丈夫やない」
缶ビールを握りつぶした清虎は、苛立ったように陸を抱き寄せた。
「嫌や。陸が傷つけられんのは耐えられへん。もし俺がおらん時にこないなこと起きたらと思うと、気ぃ狂いそうや」
またうっかり「大丈夫だよ」と言いそうになり、言葉を飲み込む。それ以外になんと返せば良いか解らず、陸は無言のまま清虎の背中を撫でた。
「陸はもっと周りの人間を警戒しなアカン。哲治はもちろん、深澤も。親切心だけで近づいて来るとは限らんのやで」
「ただの先輩だよ」
「だとしても」
体を離した清虎が、怒ったような眼差しを向ける。
「陸は自分が魅力的なこと、ちゃんと自覚しぃや。無防備過ぎて、ホンマ心配」
首筋に強く吸い付かれ、陸は慌てて清虎を引き剥がした。
「待って清虎、痕付けないで。その場所じゃ服で隠せないよ」
「ええやんか、他の奴に見せつけたれ。……って俺、こないに自分が独占欲強いなんて知らんかった。哲治の付けた傷にすら嫉妬してまう」
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