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この心臓は誰のもの②
救いを求めるようにスマホを取り出し、清虎に『何時になってもいいから電話して』とメッセージを送った。当然のことながら、すぐに既読など付くはずもない。
会えないのなら、せめて声だけでも聴きたかった。押し潰されるような得体の知れない不安を払拭してほしい。
日付が変わる頃ようやく既読が付いたが、返信はなかった。スタンプの一つも送れないほど忙しいのだろうかと余計にモヤモヤしてしまい、こんなことならメッセージを送るんじゃなかったと後悔する。
ベッドに潜りウトウトしかけた頃、「まだ起きてる?」と清虎から返信が来た。スマホに飛びつき「起きてる」と返せば、直ぐに着信が鳴る。
『ごめんな、なかなか連絡出来んで。親父が千秋楽は新作を演る言い出して、今まで稽古しとった』
少し疲れたような声を聞き、連絡が欲しいなど我儘を言ってしまったことが申し訳なくなった。
「疲れてるのに、ごめん」
『ううん。俺も陸の声聞きたかったし。あと、今日、劇場の前まで来てくれてありがとう。仕事帰りだったんやろ。陸も遅くまでお疲れさん。仕事は順調?』
「うん。今日さ、新しい企画を任されたんだ。凄く洒落た居酒屋で、デートに良く使われてる店なんだって。大人っぽいデザートの提案をしたいと思ってるんだ」
清虎は感心したように「へぇ」と声を上げる。
『凄いなぁ。店の雰囲気に合ったもん考えるんは、大変そうや』
「そうだね。だから今度、市場調査でその店に行ってくるよ。どんな酒や料理を提供してるのか、参考にしたいから」
『え。それは、一人で行くん?』
「ううん。……会社の人と」
深澤の名前を出すか迷って、一拍、間が空いてしまった。電話越しに清虎のため息が聞こえる。
『どうせ深澤とやろ。仕事やってわかっとるけど、ソレ他にも誰か誘って人数増やして行けんの。デートに良う使われとる店に、深澤と二人きりはさすがに引っかかるわ』
滅入ったような声だった。信用されていないことに傷つき、陸も思わず「清虎だって」と反論してしまう。
「客との距離、凄く近いじゃん」
『それとこれとはちゃうやろ』
「そうかな。客は清虎に恋をしてるよ。そんな人が清虎にベタベタするのは、少し、辛い」
『お客さんのこと悪く言わんといて。俺はただ、あの人たちに感謝を伝えたいだけや』
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