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この心臓は誰のもの③
ジッポの蓋を開ける金属音が電話越しに響き、煙草に火をつけた気配がした。ああ、苛立たせてしまったと、陸は自分で自分が嫌になる。
深澤に言われた「おままごと」という単語が頭をよぎり、冷静にならねばと呼吸を整えた。
「ごめん。言い過ぎた」
『いや、俺も。陸の近くにおられへん分、嫉妬深くなっとるかもしれん。気ぃ付けるわ』
ふうっと吐き出したのは、煙草の煙か、それとも溜め息か。
「店には深澤さんと二人で行かないようにする。ねぇ、明日も稽古が終わるのはこれくらいの時間?」
『そうやなぁ、日付は超えるかも。ホンマごめんな、思うように会えんで』
「ううん。あのさ……もし迷惑じゃなかったら、明日、稽古が終わる頃に劇場の前で待っててもいいかな。清虎のマンションまで送るよ。あ、清虎は疲れてるだろうし、もちろん俺は部屋に上がらないで、そのまま帰るから」
陸が遠慮がちに提案すると、清虎は「うーん」と悩むように唸った。
『陸だって次の日仕事あるやろ。あんまり遅うなったらアカンし、無理せんといて。あと、一緒にマンションまで行ったら、俺は陸を帰しとうなくなる。寝なきゃ次の日絶対キツイって解っとっても』
帰したくなくなると言われ、陸の口元が思わず緩む。ちゃんと想われているのだなと、じわっと胸の奥が暖かくなった。
「じゃあ俺のこと泊めてよ。清虎のマンションからそのまま会社に行けるように、荷物持って行くから。その代わり、俺も寝なきゃキツイから、なんにもしないで一緒に眠るだけにする。ダメ?」
『何もせんと一緒に眠るだけ? 俺、ガマンできるやろか。でも、それもええなぁ。ちょっとでも会いたいし、腕の中に陸抱いて眠りたい』
甘い声に痺れてしまう。今すぐ部屋を飛び出して清虎の元へ行きたい衝動を、陸は何とか堪えた。
「じゃあ、そろそろ寝なきゃね。電話してくれてありがとう。おやすみ、また明日」
『うん。陸の声聞けて良かった。ほなね、おやすみ』
陸は通話を終えた画面を眺め、余韻に浸る。明る過ぎるスマホのブルーライトが消えると、光に慣れてしまったせいで、部屋を覆う闇がより一層濃く感じられた。
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