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*第二十六話* 野暮なことせんといて

 翌日、会社で欠伸を噛み殺していると、不機嫌そうな深澤と目が合った。最近よく企画部に顔を出すなぁと思いながら、眠い目を擦ってパソコンに向かう。 「佐伯くん、ちょっといい? 寝不足のところ申し訳ないんだけどさ、この間の店、今日行ってみない」  まさか自分に用があると考えていなかった陸は、深澤に顔を覗き込まれて驚きながら作業の手を止めた。 「すみません、今日はちょっと。明日なら多分大丈夫です」  今朝、清虎の部屋を出る時に「今日は早めに上がれると思う」と言われていた。せっかく長く清虎と一緒にいられるのに、他に予定を入れたくはない。 「そう。じゃあ、明日で予約を取っておくよ」 「あっ。そのことなんですが、誰か他の人も誘いませんか? 例えば、佐々木さんとか」  予約を取ると聞いて慌てて提案すると、深澤は腕組みをして陸を見下ろした。椅子に座ったままの陸は、威圧されているような気がして身構える。 「それも零に言われたの? ずいぶん束縛するんだねぇ。仕事の延長で俺と食事に行くくらい、別に問題ないでしょう。もう大人なんだからさ、自分の考えで動いたらいいんじゃないかな。佐伯くんの思考は、哲治くんと一緒にいた時とあまり変わってないみたい。いつも誰かの言いなりになってるよね」  理不尽な物言いに、陸の眉がピクリと上がった。零の言うことは否定的なくせに、なぜ深澤は自分の意見を押し通そうとするのか。  陸は不愉快さを見せつけるように、露骨に顔をしかめた。 「その考え方だと、深澤さんのアドバイスを聞く道理もないですよね。もう大人なので、自分の考えで零の意見を尊重します。深澤さんの言いなりにもなりません。駄目ですか」  深澤が大きく目を見開く。陸に反論されたのは意外だったようで、少しの間、固まった。 「あぁ、そっか。そう言えば素のキミはこんな感じだったね。見た目が淑やかそうだから、ついつい気が強いってこと忘れちゃうよ」 「茶化さないでください」  間髪入れずに言い返すと、深澤は肩をすくめた。 「別に茶化したつもりはないよ、本気で面食らっただけ。ところで最近いつも眠そうだけど、もしかして毎日会ってるの?」  

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