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野暮なことせんといて④

 深澤からはいつもの余裕が消えていた。苦々しい表情を隠すことなく、敵意のこもった目を清虎に向ける。 「そんな言い方するなんて、佐伯くんをキミの所有物だとでも思っているのかな。ずいぶん身勝手じゃないか」 「別に構わへんやろ。その代わり、俺かて頭のてっぺんからつま先まで陸のモンや。陸のためやったら、命を差し出したって、いっこも惜しない」  清虎の覚悟にぞわりと鳥肌が立った。もし刀でも持っていたなら、本当に心臓を切り取って目の前に突き出してしまいそうな迫力がある。  余程衝撃を受けたのか、深澤が思わず息を止めた。圧倒されながらもまだ認めたくないようで、清虎を見降ろし嘲笑する。 「命を差し出すなんて、よく簡単に言えるよね。軽いなぁ。本当にままごとみたいだ。どうせ、ただ恋してる自分に酔ってるだけでしょ」  清虎の真っ赤な唇は、笑みの形を保ったままだ。虚勢を張る深澤とは対照的に、嘘偽りのない本心を高らかに謳う。 「誰が簡単に言うとんねん。俺は本気で命かけてええ思てんで。そんなん、あんたが重い軽い決めんといてや。ままごとみたいで、恋に酔うてるだけやって? せやったらそれでもええで。ままごとも上等やんけ。死ぬまで陸に酔うたるわ」  清虎の啖呵を聞き、深澤は血が滲みそうなほど唇を噛んで拳を握った。反論するために開いた口から、掠れた声で呪いのような言葉を吐く。 「ずっと側には居られない癖に。次の場所に行って離れ離れになったら、直ぐに冷めちまうんだろ」  清虎がスッと笑みを引っ込めた。それを見た深澤は、勝ったとばかりに目を細める。しかし清虎は深澤の反応には興味を示さず、隣に立っていた陸を抱き寄せた。 「陸、心配せんとってな。いつも側にはおれへんけど、会おう思たら直ぐに会える。毎日電話するし、メッセージも送る。大丈夫。あの日みたいな、二度と会えへん絶望は無いよ。どこにおったって俺の気持ちが変わらへん事、陸が一番知っとるやんな」  深澤の言葉に陸が傷ついてしまったのではないかと危惧し、清虎は安心させるように髪を撫でる。  陸は清虎の腕の中で微笑んだ。

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