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野暮なことせんといて⑥

「じゃあ、そろそろ行くね。稽古、頑張って」 「うん。気ぃ付けて帰ってや。俺も早よ着替えんとな」  着物の帯を解きながら、清虎が歯を見せて笑う。名残惜しいが、陸は「またね」と手を振った。  ドアを閉めて階段の下に目をやると、既に帰ったはずの深澤と女の子の姿を見つけた。声を荒げているわけではないが、何やら揉めているような気配がする。 「あ、零のマネージャーさんだ!」  女の子が陸に向かって指をさす。陸はゾッとしながらスマホを取り出した。「こんばんは」と笑顔を作りながら、清虎に『この前コンビニにいた子が外に来てる』と用件だけ送る。 「深澤さん、何があったんですか」 「いや、俺がここから降りて来たのを見たらしくてさ。自分も中に入りたいって。さすがに勝手に通すわけにいかないから、ここで押し問答してたワケ。ところで佐伯くん、マネージャーって?」 「後で話しますね」  困ったように眉を寄せると、深澤は何となく察してくれたようだった。 「ねえ、キミ。夜遅くまで零が出てくるのを待ってたら駄目だよ。危ないし」 「何で? リナは零の彼女なんだよ。待つのが駄目なら、今すぐ会わせてよ」 「彼女……キミが?」  全く予想外の返答に、陸はポカンとしてしまう。リナは当たり前のことを聞くなと言わんばかりに口を尖らせた。 「だって、零はリナだけに優しいもん。この前マネージャーさんも見てたでしょ? 零はリナの好きなものちゃんと知ってて、ミルクティーくれたんだよ。零だって、リナに会いたいに決まってる。だから邪魔しないで」  話の通じなさに頭を抱えたくなる。ミルクティーを渡したのは、単なる偶然に過ぎないのに。  しかし無下にも出来ず、どうしたものかと陸は考え込んだ。 「もう遅いし、俺で良ければ駅まで送るよ? 夜道は危ないからさ」 「えー。お兄さんカッコいいから嬉しいけど、やっぱりダメだよ。零がヤキモチ妬いちゃうもん」  深澤が助け船を出してくれたが、リナは上目遣いで首を傾げるだけでここから動こうとしない。途方に暮れそうになった時、陸のスマホに返信が来た。 『今、じぃちゃんがそっち行ったから、あとは任せて。ホンマごめんな』  メールを読み終わるとほぼ同時に、年配の男性の「お嬢ちゃん」と言う声が聞こえた。

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