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*第二十七話* 月夜の晩に
それから数日の間、陸は詰め込み気味な仕事のスケジュールを、ひたすらコツコツこなしていた。
夜になると、清虎の稽古が長引かなければ劇場に迎えに行き、一緒にマンションに帰る。リナが待ち伏せている時は陸が囮になり、その間に清虎を先に帰すこともあった。
「なんだか久しぶりに一緒に帰るね」
劇場周辺にリナの姿がなかったので、久しぶりにタクシーではなく二人で並んで歩いた。
清虎とこうしてマンションに帰ることが出来るのも、もう残り僅かだ。
「せやなぁ。稽古も早く終わってあの子もおらん日って、なかったもんな」
清虎の端正な横顔に、少しだけ憂いが含まれている。気になった陸は、心配そうに清虎の顔を覗き込んだ。
「疲れてる? 今日は早く寝ようね」
「あーすまん、ちゃうねん。疲れてるんやのうて、明後日はもう移動日やなぁ思て。次の移動先が静岡でまだ良かった。いきなり九州とかやったら、やっぱちぃと遠いもんな」
清虎は歩きながら陸に腕を絡め、コツンと頭をくっつけた。陸も清虎の方に体を傾けながら、「そうだね」と静かに同意する。
「週末には絶対会いに行くね」
「嬉しいけど、あんま無理せんといてな。陸も仕事があるんやから」
「無理はしないよ。でも、会いたいから」
どちらからともなく立ち止まり、視線を合わせた。清虎の手を握りながら、陸が思い切ったように尋ねる。
「あのさ。清虎は俺の恋人、だよね?」
「何を当たり前なこと言うとんねん。俺は陸の恋人やし、陸は俺の恋人やで。何で急にそないなこと聞くん」
清虎は腑に落ちないと言った風に、眉間に皺を寄せた。陸は迷いながら口を開く。
「ごめん。ちゃんと清虎の口から聞いてみたかったんだ。実はこの前、あの子に『自分は零の彼女だ』って堂々と宣言されてさ。何言ってんだって呆れたけど、同時にちょっと羨ましくもなっちゃって。俺もそんな自信が欲しいって」
清虎は驚いたように、大きな黒目をぱちぱちさせた。
「あほか。こんなに好きって言葉でも体でも目いっぱい伝えとんのに、まだ足りひんの? そんなら早よ家に帰ろ。俺がどんだけ陸のこと好きか、思い知らせたる」
言いながら陸の頬を両手で包み込み、噛みつくように口づける。互いに腕を背中に回した瞬間、「ひどい!」と、悲鳴のような女の子の叫び声が深夜の住宅街に響いた。
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