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月夜の晩に②
陸も清虎も驚いて声の出所を見ると、路上パーキングに停めてあった車の影からリナが現れた。
一目でひどく腹を立てているのがわかるほど、顔を引きつらせている。
「零、ヒドイよ! リナがいるのに他の人とキスするなんて!」
白いブラウスに水色のフレアスカートと言う清楚な装いに似合わず、リナはその場で激しく地団駄を踏んだ。
「リナちゃん、いつもおおきにね。舞台の上やったらなんぼでもキミの理想を演じるけど、ごめんなぁ。化粧落としたら、俺もただの男やねん。容赦したって」
申し訳なさそうに発した清虎の声は落ち着いていたが、リナは聞く耳を持たなかった。「嫌だ嫌だ」と泣き喚き、髪を振り乱して手足をバタつかせる。それはまるで欲しい玩具をねだる子どものような、自分の感情だけをぶつける一方的な行為だった。
「零は私のものなのに!」
金切り声をあげて、清虎にすがりつく。
「リナちゃん、ちょい落ち着こ。そうや、駅に戻ってお茶でもしよか。甘いものは好き?」
言いながら引き剥がそうとしたが、リナは更に強い力で清虎にしがみ付いてきた。陸が思わずリナの肩を掴む。
「離せってば。零を困らせるだけだろ、何でわかんないんだよ」
「なんなのアンタ。零が困るわけないじゃない。アンタが消えてよ!」
言うと同時にリナは自分の着ていたブラウスを引き千切った。ボタンがいくつも弾け、レースのキャミソールが露わになる。
呆気に取られた二人をよそに、リナは不敵に笑った。
「今、リナが悲鳴を上げたら、どうなると思う? お巡りさんに『この人に襲われそうになった』って言っちゃおうかなぁ」
陸を指さし、あははと甲高い声で笑う。
「ほんまいい加減にしいや。陸は関係あらへんやろ。脅すんなら俺だけにせえよ」
「そんなコワイ言い方しないで、零。今ここで零がリナにキスしてくれたら、許してあげる。それで、零のお部屋でリナを抱いて」
清虎が絶句した。擦り寄って来るリナを振り払えず、真っ青な顔で陸を見る。
「陸、ごめん、帰って」
「やだよ。そんな守られ方したって、俺は全然嬉しくない。いいよ、叫べよ。俺も全力で無実を証明するから」
陸は清虎とリナの間に割って入ると、リナを睨みつけた。
「じゃあ、お望み通り犯罪者にしてやるわよ!」
「待てって! 俺はなんぼでも言うこと聞くから、陸は巻き込まんといて」
緊迫した空気の中、ふいに暗闇から誰かが近づいてくる足音が聞える。
「警察、呼びましょうか?」
聞き覚えのある女性の声に、陸と清虎は顔を見合わせた。
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