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月夜の晩に③
「うん、今すぐ呼んで! あのね、リナね、今この人に……」
「本当に呼んでいいのね? 私は警察が来たら、コレを見せるけど」
暗がりの中から街灯の下に現れたのは、遠藤だった。遠藤の手にはスマホが握られていて、それをリナに向けている。
「あなたがコソコソ付きまとっているのに気付いて、私達もあなたをつけていたのよ。二重尾行ってヤツ。だから、しっかり動画に撮ったわよ? あなたが自分でブラウスを破ったのも、陸くんを脅したのも」
リナの顔から血の気が引いて行く。後ずさりながら落ち着きなく「でも」や「だって」を繰り返した。
「遠藤さんが何でここに? リナが俺たちを付けてるって、いつ気づいたの」
呆けたように固まっていた陸は、我に返って問いかける。遠藤は自分の背後を気にしながら、言い難そうに話し始めた。
「えっと……怒らないであげてね。哲治はここ最近、ずっと陸くんを追跡してたの」
思いもよらない言葉に、「えっ」と清虎と陸の声が重なった。
「偶然見かけた仕事帰りの陸くんの顔色が、あまりにも悪くて心配になったんだって。それで、ちゃんと寝てるか気になって、陸くんの家を遠くから見てたらしいの。そこで、夜な夜な劇場に通ってるのを知って……。で、そこの清楚系ビッチの存在に気付いたってわけ。毒を以て毒を制するよね。ねぇ哲治、もう出ておいでよ」
振り返って呼びかけると、電柱の影から申し訳なさそうな顔をした哲治が姿を見せた。身を縮めて俯いたまま、気まずそうに視線を彷徨わせる。そんな哲治を一瞥してから、遠藤は話を続けた。
「ヘンな女が付きまとってるって、哲治から聞いたの。劇団の公演も、もう明日で千秋楽でしょ? その子が最終日前に何かやらかすんじゃないかって、今日は私も一緒に来たんだ。予想は大当たりだったみたいね」
録画中のスマホを手にしたまま、遠藤はリナに歩み寄る。
「あなた本当に最低よ。早く二人に謝って」
「何でよ! リナ悪くないもん。だって零が私以外の人と仲良くするからっ」
涙でメイクが崩れるのも気にせず、ぐしゃぐしゃの表情で遠藤に食って掛かる。話にならないと、遠藤は首をすくめた。
清虎は苦々しく顔を歪めたが、気持ちを切り替えるように大きく息を吸い、冷静にリナの目を見る。
「きちんと最後まで夢見せてあげられんで、ごめん。けどな、陸はホンマに大切な人やねん。もう二度と、俺の大切な人傷つけんといて。次は容赦せぇへんで」
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