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月夜の晩に⑤
咄嗟に差し出した手を、哲治はすぐに引っ込めた。よろめいた陸は清虎の腕に受け止められ、真っ白い顔色で弱々しく笑う。
「ごめん、立ち眩み。ホッとして気が抜けたみたい」
「陸、お前ちゃんと飯は食ってんのか? 碌に寝てもいないだろ」
手を貸すのは遠慮した哲治だったが、我慢できないように口を挟んだ。自分の胸に陸を抱えながら、清虎が哲治を睨む。
「今回のことは結果オーライやったけど、哲治もホンマええ加減にせぇよ。陸のこと追っかけんの、もう止めろや」
「それに関しては本当に悪かった。陸が平和で幸せに暮らしてるなら、それでいいんだ。でも、もしそうじゃないなら、何とかしてやりたくて。俺にその資格がないことは、解ってるよ。だから遠藤に相談した」
哲治が拳を握り締めて項垂れる。眩暈のおさまった陸は、清虎からゆっくり体を離した。
「哲治のことも、まぁ、アレだけどさ。清虎も、さっきみたいの止めろよ。清虎があのままリナの言いなりになってたら、俺は自分が嫌な目に遭うより何倍も辛い」
「せやけど」
「清虎が俺のためにと思うなら、何よりもまず自分を大事にしてよ。お願いだから」
そう言った陸は、清虎と哲治を交互に見る。
「ごめん。今みたいに倒れたりするから、いつまで経っても心配されるんだよね。これからは俺も、自分のことにもっと気を遣うよ。自分の身は自分で守る。だから二人とも、もう俺を守ろうとしないで」
陸の訴えに、清虎も哲治も苦しそうな表情を浮かべた。しばらく三人とも黙り込んでいたが「わかった」と、先に哲治が口を開く。
「今更と思うかもしれないけど、謝らせて欲しい。もし陸の気が少しでも晴れるなら、俺のこと何発だって殴ってくれて構わない。それでもまだ許せないだろうけど。……今まで、本当にごめん」
哲治に深く頭を下げられて、陸は困ったように清虎を見る。清虎は「思いっきり殴ったれ」と陸をけしかけたが、そんな気にもなれずに頭を掻いた。
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