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月夜の晩に⑧

 袖で待つ陸の姿を見て、清虎は天女のような笑みを浮かべた。踊り切って力を使い果たしたのか、陸の胸に倒れ込む。 「ここに陸がおってくれて、めっちゃ安心感あった。なぁ、俺の踊りどうやった」 「凄く良かった。世界一綺麗だったよ」  ぐったりと陸に寄り掛かる清虎が、安堵したように息を吐く。陸は清虎を抱えるようにして楽屋の奥まで運んだ。 「舞踊ショーの出番が来るまで、ちぃと休むわ」  清虎は座布団の上に崩れるように座り込み、帯を解いて着物を脱ぎ捨てた。  芝居が終わった場内は休憩時間に入ったが、未だ興奮の余韻に包まれている。客席の熱がここまで伝わってくるような気がした。  大役を果たし疲れ切った清虎を労いながら、陸が「手伝えることはある?」と声を掛ける。 「おおきに。じゃあ、そこのお茶取って」  指をさしたペットボトルを清虎に手渡すと、あっという間に一本を飲み干した。こんなことくらいしか手伝えない自分がもどかしい。 「あ、そうや。陸、これ持っといて。今日は送り出し終わったらすぐ帰るから、陸は先に行って部屋で待っとってよ」  清虎が自分の鞄を漁ってマンションの鍵を取り出すと、それを陸の手のひらに乗せた。 「あとな、ちぃとだけ、くっついてええ?」  そう言いながら陸の首に両腕を回して、清虎が甘えるように抱き着く。赤い長襦袢から覗く足にドキリとした。 「今日を過ぎたらしばらく気軽に会われへんから、今のうちにようさん陸を充電しとかな」  薄いパーテーション一枚隔てた向こう側では、次のショーの準備のためか、慌ただしく足音が行き交っている。  隠れるように二人きり隔離された世界で、少しのあいだ背徳感に酔いしれた。  その後、舞踊ショーを見終えた陸は、言われた通りに先にマンションへ戻った。  引っ越しのために荷物を片付けて欲しいと頼まれたが、元々生活感のなかった部屋は既にガランとしている。  脱ぎ捨てられた衣類をまとめて洗濯機へ放り込み、私物と思しきものをスーツケースにしまう。部屋に残ったのは電気ケトルと食器と布団くらいだったが、どれも備品なので片付ける必要はなさそうだ。   洗い上がった洗濯物を干し終えた頃、インターホンが鳴った。ドアスコープを覗くと清虎の姿があり、思わず笑みがこぼれる。 「清虎、おか……」  玄関が開くなり、勢いよく飛び込んできた清虎に、陸は「おかえり」と言い終えるよりも先に唇を塞がれた。

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